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彼のお父様
「じゃあ、行ってくるからね。夕飯は無理しなくていいよ」
同居した高級マンション。高藤本邸を出てこちらにひとり暮らしをしている彼の部屋だ。普段は家政婦が定期的に来て食事も含め管理してくれているらしい。
ふたりで向かい合って玄関に立っている。彼の出勤前だ。彼がそこにオーラを無駄にまき散らして立っている。髪をかきあげ、こちらを見た。見ると吸い込まれそう。
「家政婦さんを入れない約束ですよ。私がやります」
「……入れる気はないけど、無理はしてほしくないよ」
「無理なんてするわけないです。というか、父がいるときは私が全てやっていたんですよ、お忘れですか?」
「そうだったね。ああ、とにかく連絡するからね」
「はい、行ってらっしゃい」
「うん」
バタンと扉の閉まる音がした。背中を向けてリビングへ戻ろうとしたら、ガチャットいう音と共に、腕を後ろに引かれた。
あのイランイランの香りに抱き込まれた。
「充電を忘れた。危ないところだった。じゃあね、行ってきます」
「……は、はい」
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