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「構わない。君はこのあと大丈夫なのか?」
確かに大通りは雨で車が渋滞している。運転しながら、答えた。
「ええ、私は大丈夫です。ちょうど、研究所から事務棟のほうへ行こうかと思って出たところなので、休憩が欲しかったんです」
「悪いな、休憩を使わせて」
「いいえ、車の運転はいい気分転換になるし、私には休憩になります。あの、失礼ですがうちの誰かを訪ねてこられましたか?」
「ああ、君のお父様へ会いに来た」
驚いた。私が娘だと知っている?
「あの……私のことご存じなんですか?」
私の方を見ると、うなずいた。
「君がまだ小さい頃に、会ったことがある」
「そうだったんですか。それなのに、私だってよくわかりましたね」
「まあ、な」
「あ、駅です。あの……あなたは……」
「どうもありがとう。いずれまたお礼に伺うよ」
「え?あの……」
「気をつけて帰りなさい」
バタンと車のドアを閉めると彼は出て行った。あの笑顔を残して……。まるで王子様のような人。それが第一印象だった。
翌月。
父に部屋へ呼ばれた。入ってみると、そこにはあのときの、王子様さながらの彼がいた。
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