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不安
「稚奈、すまない。今週も一緒にいられる時間はあまりない」
もう二十二時だ。四国から帰ってきたという彼は、今日もただひたすら私をじっと見つめている。
「いいえ。でもお身体大丈夫なんですか?おとといは韓国でしたよね」
「ああ。身体は大丈夫だが、充電が不足している。来週の海外出張に連れて行きたいぐらいだ」
「そうですか。私は行けません」
「即答するなよ。少しは行きたかったのにって言って欲しかったな」
「ごめんなさい。研究が大詰めで、絶対無理です」
「わかってるよ。冗談だ。僕はシャワーを浴びてくる」
「あ、はい。あの、何か食べるなら、おつまみになるものとか……」
「いや、いい」
「わかりました。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
彼は全く抱きつかなくなってきた。二週間くらい前からだ。要するに、充電なんて口ばかりなのだ。
こうやって、すれ違い離れていくのかと最近は寂しくなってきた。
「稚奈さん、早くフった方がいいですよ。会社はもう大丈夫です。この研究もめどが付いてきましたし、その高藤の御曹司がいなくてもやっていけます。それに……」
「それに、何?」
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