不安

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 私は一旦顕微鏡から目を離して沢田君に聞いた。彼は周囲を見て私達二人しかいないのを確認すると近寄って来て、私の耳元で言った。 「それに……そろそろ僕も稚奈さんへアタックを開始しますから。今まで研究が忙しくてそれどころじゃなくて……」  私は苦笑い。それどころって、あのねえ。いいけどね、研究の次でも。私もそうだからさ。人のことは言えない。 「あれ?全然驚いてくれない。もしかして、気づいてましたか?」 「そうね、沢田君は冗談だか、本気かわからない程度には私に好意を示してくれていたからね」  ガチャッと音がして、白衣を着た祐子さんが入ってきた。彼女は現室長。父の右腕だった人。 「沢田。まだ仕事中よ。本気なら、もう少し雰囲気のいいところで告白なさいよ。女として、こんなところの告白なんてビビッとこないわよ」 「……せめて、ノックして入って下さいよ。わかっているのに、最低だな、室長」 「御曹司と戦う覚悟があるなら、私なんて気にしてるようじゃあ、無理ね」 「そんなことありませんよ、気にしてません。僕は本気です」  沢田君が立ち上がってフラスコを持ったまま宣言した。
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