ポケットと福くん

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ポケットと福くん

 春の訪れはまだまだ遠く、肌寒い日が続きますね。最近は寒さで朝早くに目が覚めてしまいます。外に出かけるのは億劫ですし、手が悴んで水仕事は気が重いですし、冬はいろいろと大変ですね。早く暖かくなってほしいものです。  こんな寒さだというのに、近所の子供達は外で元気に遊び回っています。子供は風の子とはよく言ったものですね。私も昔は元気に外に出かけていたんですけどね、今ではすっかり火の子になってしまいました。  おや、ここにも火の子がいるようですよ。  この小さくて可愛い火の子は、ハムスターの福くんです。本来ハムスターは冬眠するのですが、私の知識が少ないのに冬眠させては危ないので、起こすことにしたんです。寝たかったのならごめんなさいね、福くん。  少しでも福くんが快適に過ごせるように、部屋の暖房やペット用ヒーターをつけてなるべく暖かくしています。  冬の間も福くんを起こしているのは、寂しいからだという理由もあるのは、福くんには秘密ですよ。ふふっ。  私の語りはこれくらいにして、今日は私と福くんの日常を少しだけお見せしようと思います。  リビングの大きい棚の上に福くんの飼育ケースを置いています。今日は福くんも早起きですね。ペット用ヒーターの側で暖を取っています。大福みたいで可愛らしいものです。  おや、私に気付いたようですよ。こちらへとことこ歩いてきます。福くんってば賢いでしょう?ふふっ。親ばかかしら。  福くんを飼育ケースから出してあげ、こたつの机に乗せてあげます。大丈夫ですよ。福くんはいい子ですから、落ちたり逃げたりしません。  広くなった空間に喜び、少し走り回った後、福くんは立ち止まりました。 「!!!」  福くんが口をパクパクさせて私の方を見ています。ハムスターは滅多に鳴かないそうで、何か伝えたいことがある時、福くんはこうやって口をパクパクさせます。もしかすると、自分では声が出ているつもりなのかもしれませんね。ふふっ、可愛らしいでしょう?  さて、ここで問題です。 福くんはなんて言っているでしょうか?  そんなのわかるわけないですって?ふふっ、確かにハムスターの言っていることを理解するのは難しいことです。だけれど一緒に暮らしている私なら、福くんの言っていることがなんとなくわかるんです。  今、福くんが言っているのは… 「ポケットに入りたいのね。おいで、福くん。」  ご覧なさい。福くんが入りやすいようにポケットを少し広げてあげると、ほら、福くんが飛び込んできました。福くんは私のポケットの中でもぞもぞと動いています。だけど、残念ながら私は福くんの方を見ることができません。この時ばかりは、痛みで上手く動かすことができない自分の首を恨みます。  私の体はどんどん思うように動かなくなっていきます。  ちょっとしたことですぐに体が悲鳴をあげるし、歯が弱くなって硬いものを食べられなくなったし、耳が遠くなって小さな音は聞こえないし、視界はぼやけて見えづらいのです。  もうだいぶ歳をとっているので、仕方のないことなんですけどね。衰えてゆくのを感じるのは辛いものです。  それでも、福くんのことだけはちゃんと見えます。小さなハムスターのことがよく見えるわけないですって?えぇ、そうですね。実は福くんもシルエットがわかるくらいで、ほとんど見えていません。でも、わかるんです。心の目で見えているんですよ、ふふっ。  ポケットの中の愛しい存在に手を重ね、そのまま優しく撫でてあげます。するとほら、あっという間に福くんが眠ってしまったようです。小さな寝息が心の耳から聞こえてきます。  ポケットの中の小さな可愛い福くんの温もりが、今日も私の心を癒してくれます。
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