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一
真冬の朝はつらい。もういっそ夜までベッドから出たくない。いくら眠っても頭がスッキリとしないのだ。なのに日々の仕事や家事は山積みで、今すぐ取りかからないともう間に合いそうにない。
カーテン越しの日差しが少しづつ明るくなっていく。私はようやくベッドから出た。あともう少しで七時になるところだった。
寝室から一歩出た瞬間に、あれ?と思う。
(廊下が暖かい・・・どうして?)
この時期の毎朝、当然のように感じていたひえびえとする廊下の寒さや氷のような床板の冷たさを、何故か今朝は感じなかったのだ。
突き当たりのリビングのドアが完全に閉まっておらず、少し隙間が開いていた。 温かい空気はそこから洩れ出ているようだった。かすかにゴー、という作動音が聞こえる。リビングのエアコンが動いているらしい。
私はドアの隙間から、薄暗い室内におそるおそる声をかけた。
「・・・そこに誰かいるの?」
返事はない。
私は一つ深呼吸をしてから、思い切ってリビングのドアを開けた。誰の姿もない――よかった。きっと昨夜、自分がスイッチを切り忘れていたのだろう。
ところが暫くして、また違和感を感じた。窓のカーテンを開け、明るい外光が部屋の隅々まで行き渡った時だ。
(ソファーの座面が少し凹んでいる!まるでつい先刻まで、そこに誰かが座っていたみたい)
少し考えて、また首を振った。いや、考えすぎだ。きっとソファーが古くなって、クッションが劣化してきているのだろう。 私も少し神経が疲れているのだろうか。
昨夜は遅くまでこの部屋で仕事して、気力が限界になるまで頑張ってから寝た。そのせいで、ついエアコンを消し忘れただけだ。全然おかしなことではない。それなのに。
気のせい、考え過ぎ、いくらそう思おうとしても、得体の知れない何者かが今もそこにいて、じっとこちらを窺っているような強迫観念が頭から消えないのだ。
そんな気分の時は、もう見るもの全てが怪しく、不安げに見えてくる。
(私、いつもテーブルの上にティッシュの箱を置いてたかしら?位置が変わってない?それにこのテレビのリモコンも・・・)
私は冷蔵庫の扉を開けた。
「 冷やしておいたお茶がもう残り一口になっている・・・!私いつの間に、こんなに飲んだのかしら?」
わからない。全てが曖昧で、自分がしたと思えばそんな気もするし、そうでないと思えばそんな気もしてくるのだった。
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