0-1.いまも昔も精霊は

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 聞くところによれば、原動付き自転車――所謂、原付で配達することもあると聞くが、この街では今どきめずらしく自動車の走行は禁止されているため、通行に自転車も多い。  昔より数は減ったらしいが、それでも乗合馬車は未だに健在という、少女の暮らす街は、文明の発展した現代社会において、少しばかり他と違う古めかしい街でもある。 「あ、うさちゃんみっけ」  と。ぼんやりと通りを眺めていた少女が、通りの端をぴょんこと歩く兎の姿をみつけた。  兎が新聞配達のおじさんの横切るも、当のおじさんは見向きもしない。というよりも、気付いてすらいない様子だ。  そんな兎が不意に立ち止まり、おじさんを振り返る。  すると、兎がそこで見事な後ろ回転ジャンピング技を華麗に決める。  誇らしげに息をつき、おじさんをもう一度振り返る。  どこか胸を張っているように見えるのは少女の錯覚だろうか。  だが、悲しいかな。投函を終えたおじさんは、ついぞ兎に気付くことはなく自転車に跨がり行ってしまった。  けれども、兎はそれで構わなかったらしく、満足げにおじさんの背を見送ると再び通りを歩き始める。  おそらくその兎を唯一見ていただろう少女だけが、くすくすと小さく笑っていた。 「あれが他の人には視えないなんてね。精霊って見ていて面白いのに」    * 「あれ、今日なにかあったっけ?」  ダイニングに少女が顔を出せば、母親が不思議そうな顔をしてキッチンから顔を出した。 「なんもないよ。アラーム間違えて早く起きちゃっただけ」 「あっそう」  少女はダイニングテーブルに座り、スマートフォンで呟き系SNSを開けば、朝のTL(タイムライン)をぼんやりと眺めながらスクロールをしていく。 「それならミルキィ。玄関先に“精霊さんのお礼”置いてきて」  その声に顔を上げると、母親の顎がくいっと動いて、キッチンカウンターに置かれていた平皿に気付く。  平皿には旬の果物が盛り付けられていた。  スマートフォンの画面を消してダイニングテーブルに置いた彼女は、ほぉーい、と軽く返事をしながら立ち上がる。 「そういえば、今日の朝は兎の精霊視たよ」 「へぇ。じゃあ今日のお礼を持っていくのは、その精霊さんかもしれないね」 「うーん、どうだろ。技をキメて通りを真っ直ぐ歩いて行ったし」
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