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平皿を手に持った少女――ミルキィは、ダイニングの出入り口に立ち、キッチンに立つ母親の背を見やる。
「じゃあお母さん、玄関に置いてくるね。あ、それと、ご飯食べたらそのままルカんとこに行ってくる」
ルカ、の言葉にぴくりと反応した母親が朝食の仕度の手を止め、ミルキィを振り返った。
その顔は、あんたはまた、とどこか呆れ顔だ。
「あんたはまたそうやって……。ルカ君の邪魔はしてない?」
「ルカっていうか、ヒョオさんにはウザがられてる気がしないでもないけど、邪魔はしてない。入り浸ってるだけ」
「それが邪魔してるってことじゃん。たくもぉ、いつも娘がすみませんってお詫びのお昼つくるから、ルカ君のところに行く時に一緒に持っていきな」
「お、やったね。お昼買わなくてすむじゃん。ラッキーっ」
と。ご機嫌になったミルキィが、鼻歌混じりに廊下に消えていく。
そんな娘を見送った母親は、ため息混じりに深く息をついた。
もはやあの娘には諦めている。
精霊が視えるという、現代において珍しい性質を持つ娘。
けれども、その親である彼女とその夫は、そんな性質は持ち合わせていない。
ご先祖さんが少々変わった存在と契ったと伝え聞くような、少し古い血筋の一族ではあるが、それも代を重ねる毎に薄まってきたと聞く。
だが、時たま娘のミルキィのように、珍しい性質が発現することがある――先祖返り、というらしい。
精霊を視る、というそれも、その発現してしまった一つである。
その他のことも含め、母親としては気がかりで仕方ない。
はあ、と。先程とは別の色をはらむ嘆息が母親からもれ出た。
ミルキィの持つ性質はこの現代において、生きづらい要因にしかなり得ない。
古き時代には役立ったかもしれないものとはいえ、現代には何の役にもたたないそれだ。
それは時として孤立を、孤独を招く。
そしてまた、人とは違った一面も持つ娘と、どう向き合ったらいいのか未だにわからない。
母親の胸中には、そんな仄暗いものが燻り続けている。
何かきっかけがあれば――と。
願いのような希望を抱くことしかできない。
臆病な母親だな、と彼女はずっと思っている。
「たまには早起きするのも、まあ悪くないかな」
うーんと身体を伸ばし、ふうと勢いよく息を吐き出す。
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