0-1.いまも昔も精霊は

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 平皿を手に持った少女――ミルキィは、ダイニングの出入り口に立ち、キッチンに立つ母親の背を見やる。 「じゃあお母さん、玄関に置いてくるね。あ、それと、ご飯食べたらそのままルカんとこに行ってくる」  ルカ、の言葉にぴくりと反応した母親が朝食の仕度の手を止め、ミルキィを振り返った。  その顔は、あんたはまた、とどこか呆れ顔だ。 「あんたはまたそうやって……。ルカ君の邪魔はしてない?」 「ルカっていうか、ヒョオさんにはウザがられてる気がしないでもないけど、邪魔はしてない。入り浸ってるだけ」 「それが邪魔してるってことじゃん。たくもぉ、いつも娘がすみませんってお詫びのお昼つくるから、ルカ君のところに行く時に一緒に持っていきな」 「お、やったね。お昼買わなくてすむじゃん。ラッキーっ」  と。ご機嫌になったミルキィが、鼻歌混じりに廊下に消えていく。  そんな娘を見送った母親は、ため息混じりに深く息をついた。  もはやあの娘には諦めている。  精霊が視えるという、現代において珍しい性質を持つ娘。  けれども、その親である彼女とその夫は、そんな性質は持ち合わせていない。  ご先祖さんが少々変わった存在と契ったと伝え聞くような、少し古い血筋の一族ではあるが、それも代を重ねる毎に薄まってきたと聞く。  だが、時たま娘のミルキィのように、珍しい性質が発現することがある――先祖返り、というらしい。  精霊を視る、というそれも、その発現してしまった一つである。  その他のことも含め、母親としては気がかりで仕方ない。  はあ、と。先程とは別の色をはらむ嘆息が母親からもれ出た。  ミルキィの持つ性質はこの現代において、生きづらい要因にしかなり得ない。  古き時代(むかし)には役立ったかもしれないものとはいえ、現代には何の役にもたたないそれだ。  それは時として孤立を、孤独を招く。  そしてまた、人とは違った一面も持つ娘と、どう向き合ったらいいのか未だにわからない。  母親の胸中には、そんな仄暗いものが燻り続けている。  何かきっかけがあれば――と。  願いのような希望を抱くことしかできない。  臆病な母親だな、と彼女はずっと思っている。 「たまには早起きするのも、まあ悪くないかな」  うーんと身体を伸ばし、ふうと勢いよく息を吐き出す。
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