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「犬みたいな毛玉に見えるけど、たぶんあれ、精霊だと思う」
あれ、と評されたそれは、積み上げられた鉢に頭からすっぽりとはまったであろう、尾を生やした青白磁色の毛玉。
それが後ろ足をばたつかせていた。
きゅんきゅんと漏れ聴こえる声は、必死にもがいて助けを求める声か。
だが、その声もいつの間にか、きゅーん、から、ひーん、と情けない声に変わっていた。
天幕通り。その名の通りに天幕が幾つも張られて並ぶ通りだ。
天幕内には敷物が敷かれ、簡易テーブルとクッションも用意されており、食べ物の持ち込みも可能な休息を目的とした通り。
別通りに立ち並ぶ露店――通称、露店通り――から買った食べ物を持ち込む人の姿も多い。
起源はもうわからないが、昔から続くこの街特有の天幕通りは、ちょっとした観光名所にもなっているらしい。
露店でソフトクリームを買ったミルキィは、そんな天幕通りを歩いていた。
あの子が食べやすいようにと、ソフトクリームはコーンではなくカップタイプの方にしてもらった。
幾つかの天幕を通り過ぎ、やがて目的の天幕前で足を止めた。
天幕内に人が居ることを告げる赤布が風になびき、赤布に装飾された鈴がちりんちりんと音を奏でる。
天幕内からはソフトクリームの匂いを嗅ぎつけたのか、きゅんきゅんと鳴く声が漏れる。
それに小さく笑いながら、ミルキィは垂れ幕を押し上げて天幕内へと入っていく。
「お待たせ、プリュちゃん」
ミルキィが天幕内へと入ってすぐ、彼女の足元で毛玉が駆け回る。
思わず苦笑した。
「お行儀よくする」
元気な青磁色をした毛玉は、その一言に大人しく天幕内に置かれた小さなテーブルの前に付くと、尻を落として座った。
だが、きらきらと期待に満ちた碧の瞳がミルキィを見上げる。
「ぷりゅ、しずかになった!」
「そうだね、お行儀よくなった」
くすりと小さく笑い、ミルキィはテーブルにカップを置く。
毛玉はぱあと顔を輝かせると、そろりと舌で舐めとる。
露天のソフトクリームの甘さがお気に召したらしく、頬を染めて尾を勢いよく振った。
「これ、おいしい!」
そのままかぶりつくのかと思いきや、ミルキィの予想に反して、ちろちろと舌で少しずつ食べ始める姿は、どこか育ちの良さも感じさせる。
へぇ。元気なだけの毛玉ではないのか。
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