0-2.迷子の精霊

3/4
前へ
/99ページ
次へ
 木べらのスプーンで口へソフトクリームを運びながら、ミルキィはぼんやりと毛玉を観察する。  獣の姿をしているということは、少なくとも中位以上の精霊ということだ。  下位精霊は精霊としてはまだ未成熟ゆえに、獣の姿形すら保つことができない。  上位となれば人の姿に転ずることも出来るが、目の前の毛玉は人の姿に転ずる様子がない。  ソフトクリームを食すならば、人の姿の方が食しやすいだろうに。  何口目かになるソフトクリームを口に運び、舌に広がる甘さに頬を緩める。 「ねえ、プリュちゃんって何ちゃん?」 「ぷりゅはプリュイちゃんだよ」  毛玉――プリュイは、ぺろりと口周りを舐めて顔を上げた。  食べる速度がゆっくりだからか、既に半分ほど食べ終えたミルキィと違い、プリュイのソフトクリームはあまり減っていない。  それどころか、くるりと渦巻くソフトクリームの先は溶け始めており、くたりとへなってきていた。 「ぷりゅはあおっぽいけど、ちちうえははくろうのせーれーだよ」  へへんっとどこか自慢げであり、その姿が微笑ましくてミルキィは顔を綻ばせた。 「てことは、プリュちゃんのお父さんって“白”を持った精霊なんだ。すごっ」  精霊の“白”とは、上位精霊の中でもさらに強い力を持った精霊のことだ。  精霊の間でも白の色を持つことは憧れの的であり、その色を目指して日々修行に励む精霊も多いと聞く。  プリュイの父親は白狼らしいので、文字通りに白い狼の精霊ということなのだろう。  ということは、彼女は犬でなく狼の精霊ということか。  そのことに、自身の事情ゆえなのか、ミルキィは少しばかり親近感を覚えた。 「何個も質問ごめんね」  じぃと溶けかけのソフトクリームを見つめるプリュイに、ミルキィは最後の問いをすることにする。  これが本題と言ってもいい。 「プリュちゃんは迷子だったりする?」  精霊としての位は中位だろうと予想しているが、彼女の言動からして、まだ親の庇護下にある齢に思えるのだ。  ソフトクリームから視線を外したプリュイがミルキィを見やる。  碧の瞳が瞬き、そして、にぱっと元気に笑った。 「うんっ! ぷりゅ、まいごだよ! てんいしようとしたら、しらないとこにてんいしちゃったの」 「……」  ミルキィの金の瞳が瞬く。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加