0-2.迷子の精霊

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 あまりに元気に肯定されたものだから、ミルキィは思わず呆気にとられてしまった。  てんい、とは転移のことだろうか。  精霊は転移術を扱うことができる。  転移先の場所の座標だとかを割り出すとかなんとか、なんだか難しい話を知り合いの精霊から聞いたこともあるが、その精霊曰く、人が息をするのに近い感覚だと聞いた。  それを失敗するとはどういう感覚なのか。  ミルキィ自身、呼吸を失敗したことは、たぶん、ない。  少なくとも――。 「……転移術に失敗した精霊はあまり会ったことないけど、それはよくあることなのかな」 「うん。ぷりゅも、ちちうえくらいしかあったことないや」  どうやら、精霊間でも珍しいことらしい。  ちちうえとおそろいだ、と喜んでいる迷子精霊に、さすがのミルキィも頭を抱えたくなった。  ぽたり、と。溶けかけのソフトクリームが涙の如く垂れ落ちた。    ◇   ◆   ◇  風に乗り、淡い黄の色をした小鳥が街に舞い降りた。  近場の屋根に降り、賑わう通りを琥珀色の瞳が見下ろす。 「たく……あいつ、何処行ったんだよ。転移術展開中に『ぷりゅもっ!』とか言って転移術発動さすなよ」  はあぁぁと、重く長いため息を落とした小鳥は、もう一度飛び立つために前傾姿勢をとる。 「迷子を探すにはやっぱあそこか。風に訊いても、面白がってオレには教えてくれないし」  母に対して素直なくせに、と胸中で悪態をつきながら、小鳥は両翼を広げて飛び立った。 「オレが母さんに怒られるんだからな」  飛び立った小鳥を、風が下から吹き付けて押し上げる。  一瞬バランスを崩し、うおっ、と小鳥から声がもれると、彼の耳元で風がひゅうと高く鳴いた。  それはまるでからかっているようで、小鳥は思わず渋面になる。 「……舐められてやがる」  ぐううと歯噛みし、気を取り直すために一度強く羽ばたいた。  母からは、妹をよろしくね、と念を押されていたのに。  その妹を見失うなど、母からの叱られ案件ではないか。  それに何より、兄としても情けなさを覚える。  頭の飾り羽根と尾羽根をなびかせながら、小鳥は街向こうに見える森を目指して羽ばたいた。
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