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「そう思わない?掃除のオネエサン」
毒を吐きながら私にニッコリと甘い笑顔を向けた彼は近くの壁に寄り掛かり、胸ポケットから黒っぽい小さなケースを取り出した。
そして、ケースの中から出て来た細長いスティック状の物を口に含む。
彼の問い掛けに答える代わりに口から飛び出したのは……
「あの、お煙草は所定の喫煙ルームでお願いします」
一瞬彼は驚いたように只でさえ大きな目を見開いた。
かと思えば、すぐに細めて言う。
「煙草じゃないよ。アイコスだし」
「いや、同じような物じゃないですか。吸うなら喫煙ルームでお願いします」
「やだ、移動すんのメンドイ。遠いし」
可愛らしい笑顔で腹の立つような返しをする男性。
このままやり取りを続けてても埒が明かない気がする。
「凪ちゃーん!!ちょっとこっち手伝ってー!」
佐伯さんからのヘルプの声が聞こえた。
「はーい、すぐ行きまーす!」
すぐさま返事をして、途中だったゴミ回収を終わらせる。
「………一応注意はしたんで。後で誰かに叱られても私のせいにしないで下さいね」
面倒事にならないよう、男性に念押ししてその場を去ろうとすると…
「じゃあね、凪ちゃん」
馴れ馴れしげな名前呼びにムッとしながら振り返ると、彼はアイコスを口に含みながら満面の笑みで手を振っていた。
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