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「中田原さん、ちょっと会議室まで来て貰える?」 「………はい」 目の前を通り過ぎて行く男女を横目に、小さく溜め息を一つ。 あの二人、またか………と、胸の中で呟いた。 業務をほっぽっての密会。 誰もいない会議室、給湯室の死角、人気のない非常階段前、エレベーターという密室…… この辺り、会社の中で密かに愛を育んでいる男女の遭遇率がかなり高い。 「(なぎ)ちゃん、ほらまたあの二人……」 「はい、よくやりますね」 コンビを組んでいる佐伯さん(年齢不詳、恐らく50代)が声を潜めて言ってきた。 「あの男の方………この間別の女会議室に連れ込んでたわよ」 「へぇ…」 佐伯さんはこの手の話にやたら詳しい。 「それから、営業二課の松林主任が別の課の若い子と……」 「これまた、へぇ……です」 「それがね、松林主任、既婚者なのよ。結婚指輪してたし。歳は50手前位だったか……いい歳してお盛んよねぇ」 どこから得た情報なのかは分からないけれど、他人事ながらあまり気分の良い話じゃない。 「危険な香りがぷんぷんするわ~ドロドロしてそう。怖い怖~い」 「………とか言いつつ何だか嬉しそうですね、佐伯さん」 そして、佐伯さんの洞察力と情報網には驚かされる。
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