1 東風吹かば

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バスの中でクロワッサンを大量に食べ、満足したおみはぷぅぷぅ寝息を立て始めた。今日は朝早かったもんな。それに、昨日の夜は楽しみすぎてなかなか寝付かなかったし。慣れない人混みもあって疲れたんだろう。 大宰府まではまだまだ時間がある。少し寝かせておこう。 「みぇー……」 「おみ?」 「んにゃ、みゅぅ」 「寝言か」 片手にしらたき、もう片方で俺の服をしっかりと握ったまま口元をもぐもぐさせている。夢の中で何か美味しいものでも食べているんだろうか。尻尾がゆらゆらと揺れている。ご機嫌なんだな。 おみと暮らし始めて、一年半が経った。最初はどう接したらいいか分からず悩んだりもしたけれど。 「家族……家族かぁ」 その言葉が胸の奥を優しくくすぐる。気恥しいような、嬉しいような。周りから見るとおかしな関係だろうけれど、俺とおみの間では確かに「家族」が一番ふさわしい。 毎日大泣きするし、ぐずるし、すぐ転ぶし。ついでに食いしん坊で甘えんぼでたまに変な踊りをするから見ていてハラハラするけれど、その分楽しい時もある。そんな日々がいつの間にか当たり前になっていることが、とても幸せなんだと今になって実感する。 父さんや母さんも、同じ気持ちだったんだろうか。 「今、何してるかな」 元旦の挨拶以降、電話もしていなかった。せっかく地元の福岡に帰ってきているんだ。母さんはおみのことが大好きだし、たまにはこちらから連絡してみても悪くない。 ポケットからスマホを取り出して、おみを起こさないようにシャッターを切る。うん、我ながらいい写真。おみの口、半開きだけど。これも可愛いから、まあ、いいか。 その写真を家族のトークグループに送信する。ついでに「大宰府に行っています」とメッセージも送る。よし、これでいい。 「んふふ」 「みゃー……りょーた?」 「まだ寝てていいよ」 「りょーたにこにこ……おみうれしー」 「俺もだよ」 柔らかい頬を優しくつつく。いつもより高い体温が伝わってくる。ふにゃふにゃ笑う俺たちを乗せたバスの中で、間もなく大宰府というアナウンスが響き渡った。
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