1 東風吹かば

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「ぴああ……」 「おみ、こっちおいで」 「りょーたぁ……」 新幹線の終点、博多駅に到着した。ホームにたくさんの人、人、人。目を白黒させているおみとはぐれないように手を繋いでいるけれど、少しでも気を抜くと人の波に溺れてしまいそうだ。 お山に行く前、俺は東京に住んでいた。郊外とはいえ人混みや電車には慣れているけれど、久しぶりだからやっぱり驚いてしまう。きっとおみは不安だろうな。 「改札出たらおやつ買うから。そこまで我慢できる?」 「おやつ……たべる……」 「お前が食いしん坊でよかったよ」 普段とは違い、角と尻尾が見えなくなるようにしている。そのため、いつも以上に霊力の消費が激しい。甘いものを食べさせないと、途中で倒れてしまうかもしれない。 でも、ここまで泣いたりぐずったりしていないことはすごいことだ。 「おみ、いいこしゃだから、がんばる」 「うん、いい子だね」 「うみちゃとウカしゃにも、ほめてもらうの!」 「きっと褒めてくれるよ」 一段ずつ、短い足で階段を降りていく。親が子供の些細な出来事を写真や動画に残しておきたい理由が、なんとなく分かってしまった。これは確かに残しておきたい。 当たり前に一緒にいて、当たり前に成長していって。でも、その当たり前は奇跡的な出会いがあったから存在している。 「変わっていってるんだな、俺もおみも」 おみが転けないようしっかりと手を繋ぎながら、二人でゆっくりと階段を降りていった。
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