1 東風吹かば

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「あー! ウカしゃー! うみちゃー!」 「まだバスの中だから、落ち着け!」 「みっ」 大宰府駅のロータリーに、ウカさんとベビーカーに乗った宇海が見えた。さっきまでボンタンアメに夢中だったおみも、すっかり窓に張り付いて大はしゃぎだ。 ここからまたしばらく人混みが続く。角と尻尾を隠させ、荷物を持つ。またぐずるだろうと思い、おみを抱っこしようとしたけれど。 「おみ、じぶんであるく」 「え、でも人多いぞ」 「おみ、おにーちゃんだから!」 「ああ、なるほど」 どうやら宇海の前では年上ぶりたいらしい。実際の年齢はずば抜けて年上だが、見た目と中身のせいでどこに行っても子供、もしくは赤ちゃん扱いされている。 確実に年上ぶれる宇海の前ではかっこいいお兄ちゃんでいたいのだろう。 「おいちゃ、ありがとござました」 「礼儀正しいなぁ、坊ちゃん。楽しい思い出を」 「おいちゃもねー」 運転手さんにもお礼を言って、いよいよ梅の花香る大宰府に降り立った。 「おみちゃん、りょうちゃん! 長旅お疲れ様!」 「お久しぶりです。宇海も、久しぶり」 「あーう」 随分と長くなった髪を撫でる。人見知りしないのか、キャラキャラ笑っていた。赤ん坊特有の柔らかい頬がリンゴのように真っ赤になっている。可愛いなぁ。おみも赤ちゃんの時はこんなだったのかな。 「うみちゃ、おみだよ」 「おあー」 「おーみ」 おみもさっそく宇海と話をしている。この前も名前を呼んでもらおうと頑張っていたが。果たして今回は上手くいくのだろうか。 ここからウカさんたちの家まで少し歩くそうだ。その間、近況について話すことにした。仕事のこと、子育てのこと。子供の成長は驚く程に早いらしい。 「もうつかまり立ち? 早いなぁ」 「体もどんどん大きくなるから、仕立てが間に合わないの。着物だからまだいいけど」 「確かに。子供服って高いですもんね」 その点、おみは普段から着物なうえに大きさはあまり変わらない。出雲に行く時だけ大きめの着物になるけれど、それ以外はずっと同じものを着ればいい。 とはいえ、織田さんが「新作よ!」と言って新しい着物を作ってくれるから我が家には大量の着物で溢れている。着なくなったものをリメイクして、宇海用に出来たらいいんだけど。 「りょーた! りょーた!」 「ん? どうした?」 そんなことを考えていると、足元からおみの声が聞こえてきた。さっきからずっと宇海と話していたけど。一体どうしたんだろう。 「うみちゃが、しらたきとったー!」 「貸してやりなよ」 「あうー」 「たべちゃだめ! うみちゃ、しらたきはたべちゃ……みええええ!」 「あーあ……」 かっこいいお兄ちゃんはどこへやら。やっぱりおみはどこへ行っても泣き虫さんだ。
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