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1 東風吹かば
今年も無事にお正月を迎え、のんびりと、しかし普段通り日々を過ごしていた頃。ふわりと梅の香りが我が家に舞い込んできた。
甘い香りに誘われて、しらたきと遊んでいたおみもふと顔を上げる。さてさて、一体誰からの便りだろう。
「りょーた、だれさん?」
「これは……ウカさんだ」
「まー! ウカしゃ!」
結婚して福岡の大宰府に引っ越したウカさんは、季節ごとに必ず手紙を送ってくれていた。その度に産まれたばかりの赤ちゃん、宇海くんの写真を添えてくれていた。
生後半年の宇海は、ふくふくの頬を桃色に染めてほにゃりと笑っていた。うーん、可愛いな。
「うみちゃ、おっきくなったねー」
「この前会った時はもっと小さかったもんな」
「おみよりおててちっちゃい」
しらたきに写真を見せてあげつつ、自分の手のひらを重ねては「ちっちゃいー!」とはしゃいでいる。俺からすればおみも十分小さいんだけど。子供と赤ちゃんはまた違う可愛さがある。
梅色の便箋には、季節の挨拶から始まり、久しぶりにお会いできたら、ということが書かれていた。どうやら宇海のお宮参りも終わり、初詣も一段落着いたから遊びに来てはどうかというお誘いだった。
確かにおみとは宗像やその先にある温泉街に行ったことはある。しかし大宰府を訪れたことはなかったな。
「ねーウカしゃなんて?」
「遊びに来ませんか、だってさ」
「あそぶー! おみ、うみちゃにあいたい!」
「ふぅむ……」
そうは言うが、お山から大宰府はそこそこの距離がある。おいちさんのように空飛ぶ車があるわけでもないし、数日とはいえお山を離れることに少し不安があった。
とはいえ。
「まあ……最近はおみの霊力も安定しているしなぁ」
「おみ、いいこしゃ?」
「おみはずっといい子だよ。ちょっと考えてみるか」
「きゃー!」
こうやって、少しずつとは言え遠出できるようになったのはまさしくおみの成長と言えるだろう。宗像や大宰府のように、強い霊力が溢れる場所であればそこまで大きな問題はないようにも思う。
結界や霊力の確保、それと長時間の移動が出来るかなど諸々の問題を考えて。
半日、たっぷり頭を働かせ。
「よし、行こうか。大宰府」
「いこー!」
俺たちは、大宰府に旅することになった。
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