きさらぎ 第一話

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きさらぎ 第一話

寒い。 でもどこかで君は歩いているだろう。 そう思えると僕もきっと歩いていけると思える。 さっき買って手に握りしめていた自販機の珈琲を もう一度通り過ぎてもまだ口の中に含んでいた。 冷たい。 人生は苦い。 そう感じたのは12月。年の終わり。 去年?数年前? いやもっとずっと前から。 大学も終わり会社通いになった数年後。 一年を思い出し、後悔を多く感じるようになった。 学生の頃と違い、一人で行動しなければいけない時間が増えた。 今、どこにいるのか? 何が好きなのか? どこへ行くつもりなのか? 決められない。わからない。 正解を見つけられない。 歩いても歩いても行き止まりばかり。 誰かにこれが良いよと言ってもらわないと 好きでいていいのか怖い。 皆と同じモノを好きでいたいし、 同じ速度で歩いていきたい。 同じ制服で笑っていたい。 でも今日も誰とも話さず一日パソコンの前で クレーム係の仕事を続けていた。 白い画面のチャットに客からの返信の言葉が 一言、一言冷たく照らし出される。 そして今までの僕の人生を否定していった。 どうしてこんなこと言うんだろう。 一人で歩き続けるのには向いていないタイプだった。 空を見上げる。君のいた空色と似た空色を探した。 あの時は君も僕も一体だった。理解し合えた。 もう同じ色は二度と現れなくても。 僕は僕の。君は君の道を。 今日の行く先を決める。 着る洋服を決めた。 初めて自分で決めたよう。 靴に足を入れる。 真っ白くおろしたて2月の向かい風が吹く。 きさらぎへ歩き出す。真冬〜生命が動き出す春。 春への季節が巡るのなら桜の枝を探す。 まだ寒そうなその枝に君の名を呼ぶ。 泣きながらでも、ついていきたかった。 続く
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