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2.囲み取材
大会2日目。
間宮が安定したパフォーマンスを披露し、スペシャルジャンプ(純飛躍)の頂点に立った。
今大会ダントツの実力者。
リザルトが発表される前から勝敗なんて分かっていた。
颯は苦いため息をついて黙々と撤収した。
重さ2キロの望遠レンズはバズーカのように太く、冷たい。
ストラップが肩に食い込んで、前に進もうとする動きを阻害した。
ランディングバーンの近くに人だかりができていた。
表彰台が用意されると、最も高いところに間宮が乗った。表彰状と記念品が授与され、晴れやかな笑顔で胸を張った。
「今日の勝因は?」
「戦略は何でしたか?」
報道陣が王者を取り巻き、囲み取材が始まった。
優里がずいと前に出た。
「長野出身の間宮さんにとって、ここでの優勝は特別ですか?」
「そうですね、うれしいですよ」
間宮は優里の質問ににこやかに答えた。
「今は宮城が拠点ですけど、白馬村は僕がスキーに出会った故郷なので。子どもの頃の思い出を懐かしく思うと同時に、成長を実感しています」
「ありがとうございます」
優里は会釈して次の質問権を他の記者に譲った。
「いいじゃん。今のコメントは明日の紙面で使わせてもらうよ」
集団の最後列でメモを取るだけの颯は、戻ってきた優里に頷いた。
「交換条件がこれでいいんですか?」
優里の丸い目がじっと颯を見る。
「代理質問なら手が震えてもできるので、私は助かるのですが」
「いいんだよ。俺はあいつと話したくないから」
詳しいことは話さず、大会パンフレットの日程表に目を落とす。
コンバインド(複合)が翌日に控えていた。
瞬発力と持久力の総合力が試される、通称「キング・オブ・スキー」。
颯にとって、最も取材しがいのある種目だった。
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