5.再会

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5.再会

大会3日目。 颯は寝不足のまま、駐車場とシャンツェをつなぐトンネル通路を歩いていた。 杜の都新報のウェブサイトを見た。 共通通信の写真が使われていた。 胸が重くなって、サイトをそっと閉じた。 「おい、瀬崎」 左肩に白い息がかかった。 「……なんだよ」 振り向かなくても分かる。 腹立たしいほどに明るい声。 「お前、俺のこと避けすぎでしょ」 間宮の声が笑った。皮肉が滲む。 「お前にならいくらでも質問に答えるのになぁ。寂しいよ」 「うるせぇ。ちゃんと記事にはしてるだろ」 友人を振り切りたくて、歩くペースを上げた。 今日もカメラの重苦しさが軽快な歩みを許してくれない。 間宮の影が付いて離れない。 出会った小学4年の冬から、ずっとそうだった。 「お前がいなければ、俺は――」 中学のスキー部でジャンプ選手になった颯と間宮はライバル同士だった。 共に全国大会に出場したこともある。 それが高校に入ってからは、間宮だけが目立つようになった。 「颯の名前はどこだ?」 スポーツ面の隙間を埋める、その他大勢の記録欄。 祖父が大会のたびに虫眼鏡を当てていた。 節くれだった指で一文字一文字をなぞり、孫の名前を探す姿に劣等感が暴れた。 「その他大勢」の声に耳を傾けてやりたかった。 カメラを向けてやりたかった。 大学卒業後、報道の世界に飛び込んだ。
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