5.再会

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薄暗いトンネルを抜けると、白銀の世界に光が降り注いでいた。 「そうだな」 颯はぽつりと呟いた。 「お前がいたから、俺は記者になったんだ」 「だろ? 俺はお前を待ってるんだぜ」 漆黒のジャンプスーツに身を包んだ友人は目を細めた。 間宮はスキー板に使うワックスを手にしていた。 バスまで取りに行って、シャンツェに戻る途中だったらしい。 選手用リフトに向かう途中まで付き合う。 リフトと階段。昔も今も、2人は頂上を目指すスピードが違いすぎた。 「ペン記者はもう、希望しないよ」 颯は自嘲気味に言った。 「俺は記事で人を傷付けすぎた。言葉の恐ろしさを知ったよ」 「あーあ、そうやってお前は」 すぐ自分を責めるんだから、と明るい声が降ってくる。 「じゃあまた一緒にジャンプする? 誰も傷付けない、じゃん?」 「やめとく」 「ほらやっぱ、お前は取材する側の人間なんだよ」 間宮は颯の前に立った。いつの間にかリフト施設の前に到着していた。 「結局お前は、取材することをやめられないんだよ」 「何だよ、偉そうに」 「ま、悶々と楽しめや」 胸を拳でドンと叩かれる。左肩のカメラが揺れた。 友人を避ける後ろめたさも、言葉で大切な人を傷付けてしまう怖さも、全て見透かされていた。 「うるせぇバカ」 颯は遠ざかる背中に呟いた。 「俺は――」 頼りない言葉を言いかけて、ふと口をつぐんだ。 どんなにあがいても、飛び続ける友人には敵わなかった。 一度立ち止まり、リフトを見上げる。 颯は再びシャンツェの階段を上り始めた。
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