6.指導

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6.指導

踏切台の下に位置するカメラポイントに到着すると、他社の記者やカメラマンがすでにスタンバイしていた。 その中には優里もいた。 泣きはらした顔は何も言わない。 「優里」 なんとなく名前を呼びたくなった。 「『置きピン』、教えてやるよ」 かさ、とスキージャケットが動く音が響いた。 「別に、いいです」 絶望と孤独を含んだ涙声が刺さる。 カメラを抱えるように持つ両手がまた、ぶるぶる震えていた。 「私がいなくなったら、みんな喜ぶんでしょう。だったら――」 そうじゃない、そうじゃないんだ。 颯はゆっくりと呟いた。 「お前がいなくなったら、俺は、ちゃんと悲しいよ」 競技開始まで、あと30分。 半ば強引に指導を始める。 「まずはピントを定めるんだ。ランディングバーンに、数メートル間隔で埋め込まれたポイントがあるだろう? その一つにピントを当てたら、レンズをそのまま真上に向ける」 あとはその位置を選手が横切る瞬間にシャッターを切る。 優里は懸命に挑戦した。 レンズを回す指の動きに集中して、ピントを調整する。 「できた……」 初めて出会った日のように、ぱっと顔が輝いた。 ついに、競技開始時間を迎えた。
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