プロローグ

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プロローグ

靴底の裏がぎゅむ、と鳴った。 鉄色がむき出しになった網目状の階段に、雪の塊が挟まっていた。 カメラマンの瀬崎(せざき)(はやて)は長野県白馬村の「白馬ジャンプ競技場」を訪れていた。 シャンツェ(ジャンプ台) から飛び立った選手の着地点、ランディングバーン。 その脇に連なる階段を上がっていく。 やがて 踏切台(カンテ)下のカメラポイントに到着すると、カメラの入ったバッグを下ろして一息ついた。 1998年に国内を熱狂させた長野冬季オリンピックの開催地。 全長318メートル、最大斜度36.5度、標高差107メートル――俗世から隔離された、天に近い白銀の世界。 頬をなでる風ににおいはない。 眼下には北アルプスの山々が広がり、民宿と温泉宿が牧歌的な雰囲気を醸して立ち並んでいた。 これまで何度この景色を見下ろしただろうか。 颯は、この景色が好きだった。
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