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彼女は青筋を立てて、鬼の形相でわなわなと震えながら、
「なんでこんなもの録ってるのよぉ!!」
「独りでブツクサ言うのが趣味なの。ごめんなさいね。」
「キショい!!キショいキショいキショいぃぃぃ!!!」
頭を抱えて振り回し、ヒステリックに金切り声をあげた。
そして。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
獣のような雄たけびを上げながらボイスレコーダーを地面に叩きつけた。
ラブレターの包み紙が宙に舞い、バンッと音を立てて金属のパーツがはじけ飛ぶ。その一つが私の足元まで飛んできた。
その様を見て、私はくくっと笑った。
「無駄よ。データはもうアップしてある。あなたが裏切ったことは明白な流れだったよね。」
コツンと足元のパーツを蹴り返す。
彼女はカッと目を開き、また一段と高く裏返った声で、
「アンタ、まさか・・!!」
「そう。お察しのとおり、あのグループチャットにさっき投稿しておいた。自慢の彼氏さんも入ってるグループに、ね。」
振り乱れて怒髪天を衝くばかりに。
焦燥に駆り立てられた顔の皮膚は荒々しく波を打ち、口は裂けんばかりに広げて。
「消せぇええ”え”!!今すぐ消せよぉおお”お”お”!!!」
放たれた熱気は涼しく私を通り過ぎてゆく。
サラリと髪をかき上げて首を横に振った。
「あー、残念。一度投稿したやつを削除する機能は無いんだよね。」
「うッがああアっっ!!」
胃の底から捻りだされた吐しゃ物のようなわななき。
その響きは私にとって心地よさすら帯びていた。
爆ぜた想いはやがて収束に向かう。
私は微笑みながら、優しく諭すように、真綿で首を締めるように、言った。
「そうそう。音声データは一つだけじゃないよ。ほらあれ、覚えてる?パパにおねだりしに行くだの言ってたあの日。独りでブツクサやってた直後にあなたに会ったもんだから、そのまま録音しちゃってたのよね。あれもバッチリとアップしてあるから。そろそろみんな聞き終わる頃かな?」
「ーーーーー!!!!!」
叫んでるようでいてもはや声にすらなってなかった。
口をパクパク開けて喉元だけをブルブルと震わせている。
それはまるで、解き放たれた私の怨念が彼女の口に流れ込でいるようだった。
喉元を掻きむしり悶え苦しむ彼女の姿を横目で見ながら、私は地面からクシャクシャのラブレターと壊れたボイスレコーダーを拾い上げ、いたわるようにしてポケットにおさめた。役割を終えて軽やかになったのを感じて。
身をひるがえし、チラリと後ろに目をやって最後の声をかける。
「さよなら。二度と視界に入らないでね。」
くぐもったうめき声に紛れて、彼女のポケットの中から誰かからの着信音が聞こえてきた。
ー了ー
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