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二人の愛の語らいを物陰で聴きながら、私はポケットの中のラブレターを握りつぶした。
彼女は確かに数分前までは親友だった。
いつも仲良くしてくれて、私の彼への想いを応援してくれて、告白をサポートすると申し出てくれて、彼をこの場に呼び出してくれて。
そして私が校舎の陰から登場する前にーーーーーーー
一緒に考えてくれた告白のセリフを、彼女自身が言い放った。
足は動かず視線を向けることも叶わなかったが、事の成り行きは嫌でも耳に入ってくる。
戸惑う彼の声。強引に迫る彼女の声。地面を踏む足音。服と服がこすれる音。しばしの沈黙。既成事実が作られたであろう後には愛の言葉が。
私はようやく動いた足を反対側に向けて、音もなくその場から走り去った。
リナは内気な私とは違い社交的で何人も友人がいるため、私と縁が切れても何ら問題はない。
なぜそんな彼女が私に声をかけてくれたのかは当時から疑問だったが、今になってみればただの気紛れか、あるいは私を引き立て役にしたのか、そんなところだろうと思う。
とにかくリナはその後、一切私に連絡を寄こすことは無かった。
彼と付き合い始めたことをこれ見よがしに周囲に見せつける一方で、私は孤独な日々に戻された。
チャットアプリを開くとかつての会話の履歴が表示される。
「さすが親友」
「マサノには幸せになってもらいたい」
「絶対うまくいくよ!」
本当に同じ人間が吐いたセリフなのだろうか。
最後の「今から連れていくから!絶対に姿を見せちゃだめだよ!!」というメッセージが鈍い光を放っている。
何のつもりで念押ししてたのか。もともとそのつもりだったのか。
『どうして』
そんな文字を書いてみても、送信ボタンを押す勇気は無くすぐに消した。
私が先に告白したところで恐らくは玉砕しただろう。
現に彼はリナを選んだし、その結果を今更変えることだってできない。
もう済んだことだ。過ぎたことだ。
何もかも無かったことに・・・
いや。
上着のポケットに手を突っ込み、夢の残骸に触れる。
今だ取り出せずにいるあの日の。
一筋の涙がツーと頬を伝う。感情より先に身体が反応した。
これだけの仕打ちを受けて許せと言うのか。
怒りも悔しさも堪えろと言うのか。
負の感情を欠片も抱かずに過ごせと言うのか。
手に握ったものが熱を帯びる。
このままでいられないと訴えてくる。
復讐せよと私に囁く。
湧き上がる破壊と反逆の衝動。
膨らみゆく私の恨みを、憎しみを、怨念を。
誰も止めることなどできない。
止めて良い理屈はどこにも無い。
身を震わせ、奥歯をギリギリと噛み締めると、黒く塗りつぶされた脳の中に鮮烈な文字が刻み込まれた。
あの女、許すまじ
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