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鈴を転がしたような声の主は、森に住む銀色の小鳥。
耳に優しく、心の隙間に染みこんでいく。
鈴を転がしたようなコロリンという声。
男はその小鳥を見上げるようにして、白と青の空を眺めた。
青い空が木々の隙間から僅かに零れている。
それを希望というのなら。
「とりわ、そらにあこがれて、とびたとうと、たくさん、はねをはばたかせました」
妹は気に入った童話を空で言えるようになった。
文字を追って嬉しそうに、何回もなんかいも自慢する。
鳥になって飛び立ちたい、そんなふうに夢を見て、外を駆け回っていた。
空は青く、晴れていた。
妹はその『鳥のおはなし』の描かれた黄色い童話を大切に胸に抱くようになった。
聖書はずっとベッドの上だ。
大きな音は男が足を滑らせたから。
気付けば、小さな崖の下に滑り落ちていた。枯れ葉が彼を滑らせて、枯れ葉が彼を無傷で落とした。
空を見上げる。
大きな音は、いつも突然に。いつも希望の灯を消していく。
重い体を持ち上げて、落ちた崖を掴みながら、引きずりながら登っていく。
何度も滑るが、少しずつ頂点へ。
男の生きた人生のように。
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