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さっきから、伊庭がじっと紫乃を見ている。早く本題に移れ!という合図だろう。仕方なく、口を開く。
「…先生は、高塚沙也加さんを覚えていますか?実は、最近、彼女の持ち物と私の物が一緒に見つかったんです。あの小学校の校庭から。どういう事だか、全く分からなくて…」
先生の顔が曇る。
「あの子のことは、もう思い出したくないの、辛いから。あなたが転校していって、そのすぐ後にやって来た」
「私に、似ていたんですか?」
「…聞いたのね。そう…似てた。雰囲気はまるで違うんだけどね。だから、最初、子供達は、口ぐちにそう言ってた。けれど、彼女はそれが気に入らなかったみたいね。言われる度に、怒ってたわ。それが孤立することに繋がったの」
そうか…。女王様だった沙也加は、女王でいられなかったんだ。寂しかっただろうな…と、彼女に同情する気持ちが湧いてきた。
親しい友達がいれば、一人にならず、その結果、事件は避けられたかもしれない。
「今日、あなたを見た時、彼女が生きて現れたのかと思ったわ。びっくりした。でも、違った。紫乃ちゃんは、昔のまま。幸せでよかった」
「紫乃は、どんな子だったんですか?」
伊庭が、微笑みを浮かべながら聞く。
「はにかみ屋さんだけど、優しくてホンワカしてて、みんな紫乃ちゃんが大好きだった。だから、彼女が来た時、あなたが戻ってきたようで、みんな嬉しかったんだと思う」
「でも、実際は違った」
伊庭が、鋭い眼差しを見せる。
「そうね。でも彼女にしてみれば、自分の知らない誰かと勝手に比べられて、いい迷惑だったでしょうね。怒るのも無理ないわ」
沈黙が重い。
紫乃は、聞きたかったことを、ようやく話した。
「あのー、今回、見つかったのは、私のリコーダーの布袋だったんです。私が、忘れて置いていった後、彼女が使ってたんですか?」
先生は、驚いて言った。
「そんな事、あるわけないわ。私が気付かないはずがない。もし、見つけてたら、すぐにあなたに送ったわよ。東京の住所、知ってたもの」
そして、不審な面持ちで、続けた。
「あれは…確か…紫乃ちゃんが転校するから、一緒に荷物をまとめていた時、あの縦笛、袋ごと無かった。『おかしいわね』って、一緒にあちこち探したけど、見つからなかったじゃない」
…そうだ、思い出した。みんなの物と一緒に音楽室に置いたはずが、紫乃の物だけ無くなっていた。先生が、母に謝って、向こうで買うから、気にしないでって…。
沙也加がやってくる3ヶ月も前の事だ。彼女が、持っているはずがない。
いったい、どういう経緯で、彼女の縦笛とお守りと共に、埋められたのか。
ますます闇が深くなったような気がして、紫乃には、この後どうしたらよいのか、全く分からなかった。
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