第15話 決着

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「今日は、土曜日だよ。役場は閉まってるんじゃない?」  樹が疑問を口にする。 「それが、年度末は環境が変わる事が多いから、申告や戸籍抄本を求める人のために、午前中だけ、窓口を開ける自治体がある。ここもそうらしい」  市役所の窓口付近に並んでいる人影はない。職員が窓口を閉めようとしていた。 「すみません」  伊庭の声に顔を上げる。50代くらいの男性職員だ。 「『行旅死亡人』の山本寿さんの事を、お尋ねしたいんですが、どなたかご存知の方は、いらっしゃいませんか?」  明らかに迷惑そうな表情になる。 「窓口では、規定の業務以外、取り扱っておりません。平日に、お出かけください」 「遠方から来ています。何とか、お願いします」  重ねて頼む。 「あなたねえ…」 と、職員が言ったところに、さっきからこちらを見ていた、若い男が話しかけてきた。 「あ、それ、先月、自分が対応したヤツだ」  その途端、ヤレヤレと言った感じで、先ほどの職員は奥に行ってしまった。 「それで、何が知りたいんですか?」 「県警から、こちらの人に問い合わせがあったので、確認に来たんですよ」 「ああ。とにかく、遺骨の引き取り先を探さなくちゃならなかったので、その施設の名前をネットで検索したら、何件かヒットしたんですよ」  現代では、誰もが簡単に探偵になれるらしい。足で稼ぐ一昔前の刑事ドラマは、もう古いようだ。 「それぞれの県警に、写真のデータを送って、一つに絞ったんですけど、先方の施設には、該当者に心当たりが無いと断られました」  それは、そうだろう。今の園長は、無関係な人物だ。 「じゃあ、今は、こちらにそのまま?」 「それがですね…」  若い職員は、身を乗り出して、語り出した。 「諦めてたら、あの病院の看護師さんから『思い出したことがある』と、連絡があったんですよ」  そんな話は聞かなかった。 「藤井師長さんですか?」 「いいえ。若い看護師です。彼女の担当だったそうです。何でも、彼が入院してしばらく経った時、郵便物を預かったそうです。出しておいて欲しいと。触った感じは、文庫本のようだったそうです」 「で、それを郵送した」 「そう。その時の宛先をうろ覚えだが、覚えていた。今度は、警察を煩わせないで、市役所に連絡しました。そしたら、数日後、中年の女性が遺骨の引き取りに来ました。親戚だと言って」  思わず、樹と顔を見合わせた。 「その人の身元はわかってるんですか?」 「はい。お渡しする時に、書類に記入してもらいましたから」  デスクに行って、ファイルを持って、戻ってきた。 「こちらです」    書かれた住所と名前を見て、伊庭は言葉を失くした。
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