死んでも会いたい

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*** 「夕日ですか?」 「え?」  保が振り返ると、そこには若い女性が立っていた。 「難しくないですか? 夕日」 「ええ、まあ」  曖昧に答えると、保は再び海にカメラを向けた。 「詳しいんですか? カメラ」 「多分」 「多分?」 「ずっと、仕舞いっぱなしだったから」  腕を下ろすと、保は愛おしそうにカメラを撫でた。 「写真やってたこと、忘れてた」 「なんですか? それ」  ぷっと女性が吹き出す。「なんだろうね」つられて保も、ははっと笑った。 「見せてください」  女性が手を出す。 「どうぞ」  その手に保は、カメラをそっと乗せてやった。 「風景ばかりですね」 「そうみたい」 「みたいって」  画像をスクロールしながら女性が笑う。 「あ」  ひとつ発したあと、「彼女ですか?」女性が保にカメラを返した。 「彼女?」  液晶画面を保が覗く。そこには、夕日を受けて眩しそうに笑う、一人の女性が写っていた。 「さぁ?」  誰だろ? 首を捻り、保は眉間に皺を寄せた。 「覚えてないんですか?」  あなたが撮ったんでしょう? と女性が呆れたように笑う。多分、と保は自信なさげに答えた。 「通りすがりの人かも」 「通りすがりの人も撮ったりするんですか?」 「したみたい」 「みたいって」  全く。と女性は肩をすくめた。 「それじゃあ、あたしも撮ってください」 「え?」 「あたしを撮れば、あなたは胸を張って『通りすがりの人も撮る』と言えます」 「別に言わなくても」  くすりと笑ったあと、「ま、いっか」保は女性にカメラを向けた。  夕日を受けながら、女性がぎこちなくポーズを作る。 「あれ?」  目を(しばたた)き、保が指で目頭を押さえた。 「どうしました?」 「なんだか、目がぼやけて……」  言うや否や、保の目から、みるみる涙が溢れてきた。 「泣いて……るんですか?」 「いや、これは……。なんで?」  不思議そうに、保が手の甲で目を擦る。 「夕日が、眩しかったからかな?」  涙を拭うと、それじゃあ改めて、と保はカメラを構えた。 (了)
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