死んでも会いたい

10/11
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「じゃ、あっちで」  おちゃらけたように親指で上の方を指すと、保は大切そうに箱を両手に包み込んだ。 「そろそろ時間です」  ジェームズが空を見上げる。いつの間にか、頭上には一番星が輝いていた。 「大丈夫。覚悟はできてる」  保が目を瞑る。  あたしは大きく息を吸った。 「お願い。保の記憶を消して。あたしと過ごした日々を全て」 「え?」 「承知しました」  ジェームズの声と共に、あたりが光に包まれる。 「あかり!」  保があたしの方へと手を伸ばした。 「なんでだよ! あかり!」  保の手が、あたしをすり抜け空を切る。「ごめん」涙を堪えて、あたしは答えた。 「保が死んだら、子どもたちが悲しむよ。だって保は、みんなの大好きな先生だから」 「あかり!」 「あたしの望みは、保が幸せになること。保には、可愛い子どもたちに囲まれて、いつまでも笑っていてほしいの」 「あかりがいなきゃ、俺は……!」 「大丈夫だよ。保は絶対幸せになる。だって、たくさんの人たちに愛されてるから」 「嫌だ」  泣きながら保が首を振る。なんだかまるで、子どもみたいだ。 「保」  保の優しさが、愛が、あたしの心を温かく満たしていく。初めて会った日の、あの穏やかな夕日みたいに。 「どうか、幸せに生きて。これからも、ずっと」 「あかり……!」  保の手から、箱が落ちる。そこから光がこぼれ落ち、真っ暗な海へと吸い込まれていった。 「いつか、極楽浄土で」  保の意識が途切れると同時に、あたしの魂は、この世界に別れを告げた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!