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「残念ながら、豪華ディナーは食べられません。あなたにはもう、器となる身体がありませんから」
「そんなぁ」
なんてこったい。
あたしはもう一度両手を目の前にかざしてみた。何度やっても結果は同じ。確かに薄っすら透けている。こんな身体じゃディナーどころか、おにぎりひとつ食べられやしない。
「わかったら行きましょう。ここは、あなたのいる場所ではないのですから」
「嫌。行かない」
素早く身を引き、あたしはジェームズを睨みつけた。
「なぜ?」
「別に豪華ディナーなんて食べられなくてもいいもん。このままこうして保の側にいられるんなら、それでいい」
「いけません」
「なんで?」
「それじゃあ私が困るからです。ミスがバレたら、私は地獄に左遷されます」
「地獄に左遷?」
地獄って、あの地獄? 茹で釜とか針の山とかあるという、あの有名な?
「ええ。地獄は恐ろしい所です。あそこに配属されたおかげで、精神を病んで何年も療養している同僚が沢山いると聞いております。あんな所、普通の神経なら三日ともたないでしょう」
「それは大変ですね」
同情するように、保が眉根を寄せる。全く。情に脆いにも程がある。
あたしは首を振ってきっぱり言った。
「でも、それはあなたの都合でしょ?」
「あかり」
「あたしはこのままここにいたい。保の側に。もしどうしても連れて行くというなら、あなたがミスしたこと、上司にバラしてやるんだから!」
「なんと……!」
右手の拳を口に当てると、ジェームズは恐ろしいものでも見るように、あたしを見つめて仰け反った。
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