死んでも会いたい

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 あれからあたしたちは一晩中話し合った。  だけど同じことの繰り返しで、一向に答えが出ない。  気がつくともう、約束の時間が迫っていた。 「最期は、あの場所へ行こう」  保が言う。 「あの場所?」 「俺たちが出会った場所……。あかりと……最期に待ち合わせした、あの防波堤」 「保……」  あたしは小さく頷いた。 「答えは出ましたか?」  防波堤に着くと同時に、ジェームズが姿を現した。  黒い燕尾服と艶やかな黒髪が、少しずつ夕闇に溶けてゆく。  吸い込まれそうなほどの漆黒の瞳が、あたしを捉えて怪しく光った。 「あかり」  心配そうに、保があたしの顔を覗き込む。僅かに目配せしたあと、あたしはジェームズに向き直った。 「決めた。あたしの望みは」 「待って」  保が止める。あたしたちは同時に、保の方へと目を向けた。 「その前に、渡したいものがある」 「渡したいもの?」 「本当は、あの日渡したかったんだけど」  保は上着のポケットに手を突っ込むと、そこから小さな箱を取り出した。 「俺と、ずっと一緒にいてほしい」  そう言って保は、箱の蓋をゆっくり開けた。  あたしは大きく息を呑んだ。  箱の中には、銀色に輝く指輪があった。中心を飾るダイヤの横に、小さなメレダイヤがさりげなく光っている。 「これ、極楽浄土に持ってけますか?」  恥ずかしそうに、保がジェームズに問いかけた。 「どうでしょう?」  小首を傾げたあと、「想いが強ければ、あるいは」ジェームズは困ったように口角を上げた。
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