COLORS/カラーズ

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         -8-  翌日。 「えっ、絵美、何すんの!! コンクールは!?」  月曜日の放課後。僕たちは美術室でキャンバスに向かっていた。絵美はパレットに黒の油絵の具をのせ、筆につけて完成間近の海の絵に大きなバツを入れた。 「私、最初からやり直すの」 「締め切りまで間に合わないよ!」 「コンクール何てもういいの。私、何もわかっていなかったんだから。私は一から新しい色でキャンバスを染めていくつもり」 「今さらですか」 「今さらじゃないよ。今から始まるの。私たちまだ2年生でしょ。君はとっとと作品を応募するといいよ」 「わかったよ」  僕も自分の絵にバツを入れた。          *  翌年の夏、絵美が描いた絵がコンクールに入選した。その文部科学省特別賞を受賞した絵は、海に沈むオレンジ色の夕陽を描いた美しい作品だった。僕は入選しなかった。 「私、美大に行くの」 「僕はもう絵は卒業だね」 「私、東京の美大に行くの。君も東京の大学を目指しなよ」 「今さら? 東京の大学は偏差値が高くて無理だって」 「今さらじゃないよ。今からがんばるの! 一緒に東京へ行こうよ」 「今から・・・合格したら奇跡でしかないよ」          *  冬。絵美は推薦で志望の美大に合格した。僕は普通に大学を受験して、そしていよいよ合格発表の日がやってきた。 「僕の代わりに見てきてくれない? コンクールの時と同じ。どうせ落選だ。とても合格しているようには思えない」 「まぐれってこともあるって」  絵美が笑って言った。僕たちは合格者の受験番号が張り出された掲示板に近づいていった。僕の気持ちを代弁しているような寒くて薄暗い曇り空の日。掲示板の前では、合格してわめくもの、胴上げされるもの、感極まって泣くもの。不合格で倒れ込む者。様々な思いがその場に渦巻いていた。 「これでお別れかもしれないなんてなんだか辛いね。私がコンクールに入選できたのは君のおかげだと思っているよ。私、君と一緒にいられてとても幸せだった。そしてその幸せな気持ちを絵の中に込めることが出来たの。ありがとう」 「もう会えないみたいなこと言うなよ。でもさ、バカなのはやっぱり僕だった。絵も勉強も中途半端でさ」 「私、見てくるよ」  絵美が掲示板を見に行った。そして何も言わず涙を流して戻ってきた。僕は観念した。僕は絵美を抱きしめた。        『COLORS』
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