④ばぶちゃんのまみー

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④ばぶちゃんのまみー

――――朝だ。 これは……目覚ましじゃない。俺は素早くスマホを掴み、そして画面を見る。 ――――やっぱり。 サッと受話器ボタンを押すとすかさず叫んだ。 「朝からうっさいわあぁぁぁ――――っ!!!このバカ兄――――――っ!!!」 『ぐっす……ひっどいよぉ……っ、柚灯(ゆずひ)たぁん……っ』 俺の名前に変なもんつけるな……! 「ちょっと。朝から何コールしまくってんだ、今日俺休みなんだけど?」 『いや……だって昨日……お怒りスタンプ……おにーたんにお怒りスタンプ……』 何だおにーたんって。呼んだことないだろ。 「あのさぁ……昨晩……レンレン来たんだけど」 『え?お兄ちゃんは柚灯たんがレンレンに夢中なの妬けるけど、柚灯たんレンレン好きでしょ?』 「そりゃまぁっ!?好きですけど、愛してますけど!?俺の推しさまですもの……!?」 「そうか……そうなのか……柚灯。私も嬉しい」 え?レンレンばぶちゃんも起きて……いや、起きないわけがない、兄さんのコール五月蝿いもんね。……てか。 「レンレンがしゃべってるぅ――――――っ!?」 ばぶ化解けてるぅ――――っ!! 『ぐぅ……っ、そこにいるのか!?レンレンがいるのか!?お兄ちゃんマジ嫉妬ぉ~~っ!てか、今早朝だよね!?まさか同衾してないよね柚灯たん!?お兄ちゃん、許しませんよ!?』 「はぁ……?何言ってんの、男同士じゃん」 『だからじゃん――――っ!でもばぶの時は仕方がないか……うん。うぐぅっ、でも悔しいお兄ちゃんもばぶになりたい――――っ!』 「いや……兄さんがばぶになっても、俺は面倒みないからな?な?」 『えーっ』 「……と言うか、兄さんもレンレンがばぶばぶ言ってた原因、知ってるの?」 『あー、それは……あ、電池切れそ……』 ツーツーツー…… 今まさに切れたぁ――――……っ!!!そりゃぁかけつづけてたんじゃぁしょうがないか。 俺も充電しとこっと。 「ところでその、ばぶちゃ……」 ぱあぁっ!レンレンが顔を輝かせるが……。 「レンレン」 「……それもいいが、レンレンばぶちゃん」 「いや今普通にしゃべってるよね!?ばぶちゃんじゃないよね!?」 「ばぶー」 ばぶ真似ーっ!でもかわいい。推しさまは何したって、言ったってかわいい、尊い、素晴らしい。 「ばぶちゃん……」 「あぁ、まみー!」 「その……俺は柚灯だし……さっきも呼んでたじゃん。俺の名前も知ってるんだ……。いや、兄さんから聞いたの?」 「以前ファンレターをくれただろう?」 「……それは……覚えてたの!?」 「あぁ……だからファンレターを受け取り、付いていた匂いで柚灯が私のままんだと分かった」 匂い……!?付いてるの!?ファンレターに匂い付くの!?言っとくけど、変なことしてませんからね!便箋にほっぺやお尻すりすりしてませんからね!? 「てか……ままんって……。まみーもお母さんのこと……だよな?」 そう言うプレイか何か……? 「まみーやままんはおかんのことではない」 あー……お母さんとはそれで区別してんの。へぇー……。 「柚灯。私の家系……漣家は代々優秀な人材を輩出してきた。しかし時折、優秀であるがゆえに、ばぶ化するものが出る。これをばぶと呼ぶのだが……ばぶ化は1ヶ月に2~3日、突発的なショックやまみーに甘えたい時にばぶ化することもある。ばぶになると、ばぶ語しかしゃべれなくなる。ままんを呼ぶときはまみーと呼べるが……。今までは抑制剤で我慢していたのだが……遂に限界が来てばぶから戻れなくなってしまったんだ」 「あー……それで活動休止に」 「うむ。しかしこうしてばぶから戻れ、愛しのまみーと出会えた以上はもう大丈夫だ。活動再開する」 「それは、良かった」 ファンとしても嬉しい。 「でも、まみーとかままんってのは?」 「ばぶ期のばぶをかわいがってばぶから戻してくれる存在だ。どのばぶにも必ずひとり、運命のままんがおり、遠くにいたって必ず惹かれ合う。ばぶはそれ分かる。それがばぶ&まみー。私もファンレターをもらってすぐに柚灯に会いに行きたかった。色々と調べて寿灯の弟だと分かったが……あの男……」 「んー……兄さん?」 「是が非でも弟に会わせないと妨害してきたあのブラコン」 「まー……そうだね。いい加減弟卒業しろって感じ?一人暮らしはまぁ何とか両親に納得させられたけどね」 「だが、私がばぶから戻れなくなり、さすがに折れた、あの男」 うん、折れなかったら絶交だかんな。何せ推しさまの活動休止の危機である。 「そして、意気揚々とまみーに会いに行ったのだ」 「あぁ、うん。そゆこと……あ、でももうばぶから戻ったんだし……帰るの?」 「……帰らないが?」 「え?」 「仕事には行くが、ここに帰ってくる」 「え……なん、で?」 「ばぶはまみーと一緒にいると落ち着き、安定するのだ。むしろばぶ期以外もよしよしなでなでして欲しい」 かわいいな、ばぶ!? 「それに柚灯が好きなだけこちらにいていいと言ってくれた」 「そりゃぁ……そうだけど。りょ……両親が帰ってきたらどう話せば……」 海外ツアー終えたら帰ってくるんだけども!?何でレンレンいるんだって話にならない!?ばぶのことどう説明すれば……っ。 「そこら辺はうちの母さんに頼んで柚灯のご両親に、ここに住む許可をもらったぞ……!」 「あー……うん、歌手仲間だもんね?」 母さんはスサンナさんと同じく世界的な歌姫。因みに父さんは母さんのマネージャー。 てか、もらったんかい、許可……! 「ばぶのことも、母さんから聞いてるそうだから平気だぞ」 「マジで?すごいね」 まるでスパダリ&ハイスペ……! さすがは俺の推しさまレンレンである……! 「あ、じゃぁ……兄さんじゃなくて、スサンナさん経由で連絡とれば良かったんじゃ……」 「……ばぶ」 え?またばぶになったのレンレンばぶちゃん!?ちょっとふるふるしてるんだけどぉ――――っ!? 「ばぶ――――――っ!?」 「気付いてなかったのぉ――――――っ!」 どこ行ったのスパダリ・ハイスペ・イケメン3拍子~~っ!? でもそんな天然も……。 「かわいい」 なでなで。 「ばぶー、まみー、ばぶーっ!」 うん、めっちゃ癒されるぅー。 「もう少し寝ちゃう?どうせ休みだし」 「ばぶっ!」 兄さんのせいで起こされたし。今日はもう少し推しさまばぶちゃんと……ゆったりと過ごしたいんだ。 俺はレンレンばぶちゃんの髪をなでなでとなで、かわいい『ばぶばぶ』を聞きながら……2人で二度寝を決め込んだのであった。 ――――その後、突然実家に帰ってきた兄さんが寝室に飛び込んできて、また起こされたので……。 必殺弟からの蔑む眼差しを食らわしてやったのは言うまでもない。 その後すぐにレンレンばぶちゃんの『ばぶ、まみー、ばぶ!』に癒されたけどね。 【めでたし、めでたし】
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