青い十字架の簪

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「ようこそ、恋歌さん!3日間だけだが、ゆっくりしていってくれ!」 桃矢に無事に到着したことを伝えると、時雨は恋歌を桜井邸の隣にある自宅へと案内する。 「客人用の新品の布団だから安心してくれ。俺は桃矢殿の家で過ごすが、昼食の準備ができたらまた来る」 去ろうとする時雨のブラウスの袖を恋歌がつかむ。 「時雨様は一緒に居てくださらないのですか・・?」 「眠っている女性の隣に男がいるのはどうかと思ってな・・。夫婦なら問題ないのだが・・」 時雨の言葉に恋歌が微笑む。 「お優しいのですね・・。でも、私は時雨様と一緒にいたいと思ってしまうのです・・」 青い瞳が寂しそうに時雨を見つめる。 「・・では、俺は隣で歌でも作るとするか」 恋歌は子どものように無邪気な笑顔で顔を輝かせた。 自分の家に恋歌がいる。 それはとても不思議な感覚であった。 恋歌はよほど疲れていたのか、布団に入るとあっという間に眠ってしまった。 眠る恋歌の隣で時雨は咲から聞いた話を思い出す。 はれて夫婦となった咲と蘭だったが、夫となった咲は妻の背中に「あざ」があることに気づいたのだ。 さらには、白夜の隣にある小料理屋の主人から夜中に若い娘の悲鳴が聞こえるという話もあった。 白夜になにかしらの闇がひそんでいるのは確かである。 3日間の外泊だけでは白夜の闇から恋歌を救うことはできない。 仮に恋歌を救うことができたとしても、恋歌以外の花魁や見習いの娘達のことが気がかりである。 解決すべき問題は山積みだが、今だけでも恋歌にゆっくり休んでほしいと思う時雨であった。
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