別れのワルツ

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「桜井先生がお越しになると聞いていたのですがねぇ。ずいぶんとにぎやかなことで・・」 高島田に結い上げられた黒髪に黒い着物姿の白夜の女将の仕事部屋には、時雨と桃矢のほかに数人の役人が集まっていた。 「花魁達の中に過労で倒れた者、あざが見つかった者がいる・・。さらには夜中に聞こえる悲鳴・・。女将よ、なにか心当たりはありますかな?」 桃矢が真剣な眼差しで女将に問う。 「あたしはねぇ、身寄りのないあの子達を引き取ってここまで育ててきたんですよぉ、桜井先生?親が子どもをしつけるのは当然でございましょう?あざの1つや2つで大袈裟ではありませんかねぇ?それに、少しくらい疲れていたとしても、親への恩返しはしてもらわないとねぇ?」 役人を目の前にしても女将は取り乱すこともなく淡々と語る。 「たしかにあなたが花魁達を育ててきたのは事実だ。だがね、女将。いくらなんでも度が過ぎる・・。花魁達はあなたの道具ではない・・。こちらの役人と共に同行していただきたいのだが」 「はいはい、行きますよ・・。若い音楽家ってのはずいぶんとうるさいもんだねぇ」 女将が腰掛けていた椅子から立ち上がる。 「待ってくれ・・!俺は女将に話がある・・」 役人のもとへ向かおうとした女将を時雨が止める。 「あたしになにか用でも・・?」 女将がするどい目つきで時雨をにらみつける。 「これを・・」 時雨はポケットから封筒を取り出すと女将の机の上に置いた。 「身請け金だ・・。恋歌を俺の妻に迎えたい・・!」
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