初恋セレナーデ

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初恋セレナーデ

時雨の自宅は桜井邸の隣にある。 時雨達は蒼月帝国の帝都の隣りにある「翡翠」という街に住んでいる。 翡翠には「十六夜橋」という橋があり時雨の自宅からも近い。 十六夜橋そのものは観光名所ではないのだが、実は知る人ぞ知る絶景の場所なのである。 満月の夜の十六夜橋から眺める月夜の景色は時雨のお気に入りであり、ここで曲を作ったり演奏するのが時雨の至福の時間なのだ。 桜井邸を出て十六夜橋に来た時雨は常に持ち歩いているオカリナをズボンのポケットから出すと、つい最近完成したばかりの新曲を奏でる。 孤立していた少年時代に音楽と出会い、音楽を通して桃矢に出会った。 神楽の団員もみな時雨がダンピールだと知っていても親切に接してくれる。 音楽に救われ音楽を愛する時雨の夢は作曲家になることなのだ。 曲が終わりを迎える頃、すぐ近くで物音がした。 時雨が音の方向に振り向くと青い髪をした女性が足もとに落ちているリンゴを拾っていた。 「ごめんなさい・・!素敵な曲だと思って聴き入っていたらリンゴを落としてしまいましたの・・」 女性が抱えている紙袋は中身がぎっしりとつまっており、たくさん買い物をしたということがわかる。 「大丈夫か?ケガはしていないか?」 時雨が女性に駆け寄る。 「お優しい方ですのね・・!ありがとうございます・・!」 長く美しい青い髪に湖のような瞳、そして瞳の色と同じ色の鮮やかな蒼い着物に身を包んだ可憐な女性。 まるで、雨の妖精のようだと時雨は思った。
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