初恋セレナーデ

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「演奏していらしたのにごめんなさい・・」 「いや・・、その・・、ケガをしていなくてよかった・・」 同じくらいの年の女性と話すことがない時雨は久しぶりに緊張してしまう。 「とても綺麗な曲でしたわ・・!どなたの歌ですの?私の知らない歌手の方なのかしら・・?」 十六夜橋の上で青い瞳を輝かせながら女性が問う。 「自分で作った・・。曲を作る事が趣味なんだ・・。将来は作曲家になりたいと思っている・・」 「まあ!ご自分でお作りになったの!?きっと素敵な作曲家さんになられますわ!」 異性に微笑みながら話しかけられるとは夢にも思っていなかった時雨は恥ずかしいという気持ちを隠せなかった。 「ありがとう・・」 「可愛らしいお方・・。お名前をうかがってもよろしいかしら?」 青い瞳が時雨を優しく見つめる。 「時雨だ・・。年は19・・。翡翠に住んでいる・・。月夜の十六夜橋が好きで、よくここに来る・・」 「時雨様・・。私は恋歌と申します・・!時雨様と同じ年ですわ!私も翡翠に住んでおりますの!」 そう言って恋歌が微笑む。 「青年よ、恋に悩め!」 なぜか先ほどの桃矢の言葉が脳裏をよぎる。 「恋歌・・。1つ、聞いてもいいか・・?」 「ええ、私に答えられることでしたら・・」 時雨がまっすぐ恋歌を見つめる。 恋歌は時雨の表情から恥ずかしさや緊張ではなく、真面目な強い意志のようなものを感じた。 少し前まで可愛らしいと思っていた男性が突然、真剣な顔つきになり、恋歌の頬はほのかに赤くなっていた。 「俺はダンピールだ・・。それでも恋歌は俺と話してくれるのか・・?」 恋歌の返答が怖かった。 だが、ダンピールを快く思わない人間がいることは事実だ。 桃矢のように占い師であってもダンピールと交流する人間もいれば、占い師でなくともダンピールへの偏見がある人間はいる。 魔力の流れで判断できるというだけで、人間がダンピールを嫌うことは悲しい真実なのだ。 「時雨様とお話してはいけませんか・・?」 青い瞳と紫色の瞳が互いをじっと見つめる。 「私は時雨様の作る歌が好きです・・!今日、初めてお会いしたばかりですが、もっとお話したいと思いました!お友達になりたいと思いました!」 「・・!!」 恋歌の言葉に紫色の瞳から雫がこぼれる。 「時雨様・・!」 「すまない・・。恥ずかしいところを見せたな・・」 時雨が恋歌に微笑む。 恋歌は紙袋を足もとに置くと優しく時雨を抱きしめた。 「大丈夫ですよ、時雨様・・。たしかにダンピールの方への差別は多いですけど、時雨様のことを大切に思ってくれる方はいますわ・・」 ふと、互いの視線がぶつかる。 「ご、ごめんなさい!私!あの!初めてお会いした方に失礼なことを?!」 恋歌がいそいで時雨から離れようとするが、動揺していたため、足をすべらせてしまう。 「大丈夫か・・?」 転びそうになった恋歌を時雨が優しく受け止める。 時雨は小柄で華奢な体格ではあるが、男性と女性では体のつくりがそもそも違うのである。 「はい・・」 腕の中の恋歌からは香水の良い香りがする。 時雨と恋歌は互いに頬を赤く染めた。
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