初恋セレナーデ

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月夜の十六夜橋で時雨と恋歌が言の葉を交わす。 人と話すことは苦手だが真面目な時雨と、心優しい恋歌は出会ったばかりではあるが、会話もはずみすっかり打ち解けていた。 時雨は過去に教会に住んでいたことやダンピールとしての苦労、桃矢と出会い神楽の団員として過ごす日々などを話した。 「今日も桃矢殿が酔ってしまってな・・」 「桃矢先生は面白い方ですのね!有名な音楽家様であることは存じておりましたが、お人柄は初めて知りましたわ!」 恋歌も幼少期に両親をなくしており、とある女性に保護され育ったことや歌を歌う仕事をしている事を話した。 普段は仕事が忙しくてなかなか外出できないが、今日は久しぶりに数時間だけ外出できることになり、好物のリンゴを買いすぎてしまったらしい。 「リンゴの歌でも作ってみるか・・」 「まあ!それは名案ですわ!」 今宵の十六夜橋には影が1つ増えていた。 「本当はもっとお話していたいのですが母が厳しい人でして・・。そろそろ帰らなければならないのです・・」 恋歌が紙袋を強く抱きしめる。 「恋歌と話せて楽しかった・・。ありがとう・・」 「私も時雨様とお会いできたことを嬉しく思いますわ・・!あの・・」 恋歌が恥ずかしそうに頬をほんのりと染めながら口をひらく。 「いつ来られるかはわかりませんが、必ずまた十六夜橋に来ます・・。その時に時雨様にお会いできる事を願っていますわ・・」 「俺も・・、リンゴの歌を作りながら恋歌にまた会えることを願っているぞ・・」 去りゆく恋歌が視界から見えなくなるまで時雨は見送った。 十六夜橋の上には1つの影が初めて覚える感情に戸惑いながら立っていた。
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