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序章
誰もいない草原を、黙々と歩く。
変化状態を維持したまま行動する、自らに課した訓練だった。
成人の体格から、背の低い少年の体に変化すると、歩幅が掴めず何度も転んでいた当初。
あの頃よりは、まあマシになってきたはずだ。
遥かなあの総合学府が出来る前……領地内の学校に生徒として在籍していた少年の頃、魔術の中でも最低最悪の減点科目だった変化術。
それを今、なぜ、どうして、なぜに駆使せねばならないのか。
――と。
嘆きたくもなるその理由といえば、迅速に調査を進めるためだった。
つまり、仕方ない。
「ふう…」
向かい風により張り付いた前髪を掻き分け、真っ白い髪の少年は前を見据えた。
「こんな広い世界を守護するなど、途方もないな。前任者の物好きさが窺える――まあ、私もそうなるのか」
広い広い草原。
ただ草が生い茂る大地は、どこか懐かしい。
自分がもといた世界にも、もちろん草原はあるのだが、その世界は「自然の大切さを知ったゆえに技術を自然に合わせた世界」だ。
そこには、徹底的な破壊というプロセスがあった。
しかし、この世界――セレスの自然は、古代大戦を経ていてなお、技術というものに淘汰されていない。
故郷の「狭間の世界」は元々、あらゆる界の均衡を保つ「管理者の世界」でもあり――あらゆる界における各々の死を経て生まれ変わるまでの休憩所としての「魂の迷子の界」とも言われている。
狭間の世界の住人なら、誰もが知るおとぎ話だ。
しかし、こちらの世界は「生きている」。
そんな、気がした。
足元の剥き出しの地面は、確か、記憶の彼方に葬り去ったどこぞの誰かの故郷には当たり前にあったと聞いている。
ふと鞄に手をやり、無造作に中に突っ込んできた一通の手紙の存在を確認した。
「――これだけは、まあ、仕方ない」
誰にともなく、呟いた。
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