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第一章・水色の名残雪
ネウマの長い長い髪は、腰より若干上あたりで切り揃えられた。
腰より下ではないものの、切り揃えた位置にがっくりと膝を落とす。
「すまない……これではまだ……動きにくいとは思うが……」
「手が、震えていましたわ。私の髪の色は、どなたかと似ていたでしょうか?」
ナイフを仕舞う音と同時に振り返ったネウマの表情は、深く奥底まで見透しているようだった。
「……巫女は、そんなことまで解るのか?」
「いえ、アクアの巫女なんて、アスプロ神の神託を真実のように伝えるだけの、権力者のお人形ですわ。あらかじめ権力者により用意された文章を、神託として読み上げる――本当に降りてきた神託を語った者は、なかったことにされてしまいますの。巫女の選別には神託の能力を重視しますが、選ばれた巫女は、能力を封じ込めなければなりません。幼い日に置き去りにした神託を授かる能力がどこにあるのか、今の私には解りません。つまりこれは――勘、ですわ」
「長く語ったかと思えば……結局それか。全く……真剣に聞いた僕が間違って――」
「でも、セレスの変化の日に授かったこの水色の髪が役に立つなら、重ねても構いませんわよ? フィンの過去が、それで解放されるなら」
結局解ってるんじゃねぇか。
そう言いたくなるのを飲み込みながら、フィンは苦笑いを浮かべる。
とらえどころのなさにおいて、ネウマの存在は、あいつに似ていた。
「――ネウマのような勇気が、なかったのさ。僕は、追いかけることも出来た。あの子達のように……後先考えずに、飛び立つことも出来たんだ。だが……それをしたのは、つい最近のこと。失ってから飛び立っても、辿り着けないのにな」
ネウマは、ゆっくりとまばたきをしてから、フィンの瞳をじーっと見つめる。
「失ってからでも、辿り着ける場所はありますわ。失ったという事実や、失ったからこそ見えるもの。目標や欲するものを手にするだけが旅ではありません。欲したものや目標以上の、予想すらしなかった奇跡と巡り会えたりするのが、旅というもの。フィンの旅は、旅が目標で良いのではありませんか?」
深いブルーの瞳は穏やかで、何故ネウマが巫女に選ばれたのかを物語っているようだった。
幼いころから、こうなのだろうか?
ネウマの瞳は何も知らないはずなのに、より遠く深くを見出だしているような……
不思議な色彩を帯びていた。
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