倒れたその時

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倒れたその時

「もう、無理……」  私は、苔の生えた地面に頭から突っ伏した。  もう何日、私は歩き続けただろうか。  足が痛い、体が重い、頭がぼーっとして、目も開けていられない。  薄目で見えた視界に広がっていたのは、ぼうぼうに生えた草。 どこまでも続いている木々は、木漏れ日も射し込まない程に鬱蒼としている。  木の葉の擦れる音と、獣が動いているのだろう音がたまにする位。  鼻には、湿った土の香りが届いていた。  私は、迷子だ。  このまま、死ぬんだ。  だんだんと意識も遠退きそうになった頃、近くの草むらが揺れた。  野犬や熊でもいるのだろうか。 そして、そのまま食べられてしまうのだろうか。  高校一年生の夏、私の人生は終わりを迎えると悟った。  草むらから、ザザッと、何かが掻き分けて出てきた。  ぼんやりと、その姿を確認する私。  それは、熊のように大きな体を持ち、二足歩行をしている。  熊が襲い掛かる時に、立ち上がるというし、その体勢なのだろうか。  しかし、その体の色は、白と黒に分かれており、その容姿はまるでーー 「……パンダ……?」  私は、自然の音にかき消されそうな程のか細い声をこぼすと、そのパンダは目を丸めた。 「シャオラン! 大変! 人が倒れているよ!」  とうとう私は、幻聴が……パンダが喋るはずがないのに、そんな言葉を耳にした。  そういえば、こんな山奥にパンダがいるはずがないのだから、これもきっと、幻覚なのかもしれない。 二足歩行をして、たくさんの木の枝を抱えている、そんなパンダはいるはずがない。  あれ? 土の臭いしかしなかったはずが、なんだかカレーの香りに変わってきた気がする。 「リーリー、こんな山の中に、人がいる訳ないでしょう?」 「本当なんだって、ほら!」 「え……? えー!?」  草むらから、また何かが出てきた。 「生きてるの!? 死んでるー!?」  オレンジ色の髪を頭のてっぺんでお団子を作った、私と同い年くらいの女の子。  その子もまた、木の枝をたくさん持ったまま、恐る恐る私に近付いてきた。 「ひ……と……?」 「生きてる!! みんなの所に連れて行こう!! リーリー乗せれる?」 「うん!」  リーリーと呼ばれたそのパンダは、木の枝を一度放す。  動けない私を抱っこからの、クルっと背中へと移動させ、おんぶ状態にしてくれた。  もふもふの感触。  でも、しっかりとした筋肉もある背中だ。  獣臭は強くなく、人肌のように温もりが感じられる。  私は、心地も良くなり、すーっと眠りについた。
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