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2 ご挨拶
しろくろがいなくなってから十三年。
今日は付き合って五年になる彼の家へ初めて挨拶に行く日だ。緊張が半端じゃない。
「大丈夫だって、うち普通の家だしそんなにかたくなんなくたって」
慰めるように微笑んでくれる冬馬はいつも優しくて、あたしのことを一番に考えてくれる。
先日、プロポーズもされた。あたしはもちろんそれを受けるつもりだ。
だから、ご両親とはこれから先うまくやって行かないといけない。そう思うと、緊張せずにはいられない。
「はい、深呼吸ー。玄関開けたらね、親より先に待ってる猫がいるけど、優、苦手だったよね? 俺が先入るね」
「……え?」
初耳だ。冬馬が猫を飼っている話は聞いたことがない。その前に、付き合い始めの頃、あたしが「猫の話はしないで」と釘を刺したことを思い出した。彼は頑なにそれを守ってくれていた。
そっか、実家では猫、飼っていたんだ。
……シロクロ……
もう小学生の頃のことなのに、やっぱり思い出すと辛い。
「ただいま、ハート」
玄関を開けると、待ち構えていたようにきちんと座った猫の姿。彼はその猫を愛おしそうに撫でた。
「父さん母さん、連れてきたよー」
元気な声に誘われて、人の良さそうな柔らかい笑顔でひょろりと痩せ型のお義父さんと、ふくよかで優しそうな笑顔のお義母さんが顔を出した。
そして──
「みゃー!」
「あ! こら、ハート⁉︎」
さっきまで大人しくそこに座っていた猫が、冬馬の静止も聞かず、真っ直ぐにあたしへと飛びついてきた。
驚いたあたしは、お土産に買ってきたシュークリームの箱を、思わず手放してしまった。
玄関にグシャッと嫌な音を立てて落ちていくのを、スローモーションのように見送った。
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