54人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたが選んだのはハートのエースですね?」
「違います」
「えっ……じゃ、じゃあ、スペードの8?」
「違います」
「えっ……」
結局、トランプマジックは一度も成功しなかった。
なんだか途中からこちらが申し訳ないような気持ちになってきて、謎の罪悪感を植えられる。
「じゃあ! 続いては、……テレパシーです」
次こそ成功させて。
そうじゃないと、穏やかにモンブランを食べられない。
「このカードに触れて、あなたの願いを念じてください」
尼崎くんは、大きなハートが描かれた白いカードをテーブルに置いた。
「願い?」
「そうです。あなたの一番の願い」
ニヤリと笑う尼崎くん。
私は言われた通り、カードに触れて願いを考え始めた。
「目を瞑って」
そう囁かれ、ギュッと瞼を閉じる。
私の一番の願い。
それは……尼崎くんとずっと一緒に過ごすこと。
普段は恥ずかしくてそんな素振り見せられなくて、どちらかというと塩対応をしてしまうけど。
本当は、彼が思っているよりずっと、尼崎くんのこと想ってる。
お互い大学を卒業して、尼崎くんはIT企業に、私は医療事務として就職してから三年。
内心そろそろ、結婚を意識し始めている。
面倒くさいけど、私の為に常に楽しいことを探してくれる尼崎くん。
そんな彼と一緒に居られるのは、私の一番の幸福だ。
「……わかりました」
尼崎くんの神妙な声がして、目を開ける。
「あなたは今、僕と結婚したがってますね?」
「え…………」
心臓が止まるかと思った。
噓でしょ?
本当に、テレパシーでわかったの?
「……正解です」
まさか、一番難解なマジックが成功するなんて。
尼崎くんは、サングラスを外して嬉しそうに微笑んだ。
「では、カードを捲ってください」
震えた手で、言われた通りカードを捲る。
『僕と結婚してください』
カードには、達筆な字でそう書かれていた。
「尼崎くん……」
まだ信じられなくて、見開いた目から涙が滲む。
「ポケットの中をご覧ください」
カーディガンの左ポケットの中には、光り輝くダイヤモンドが一粒ついた、眩いシルバーリング。
「ハンドパワー」
「ハンドパワー」
Mr.アマック。侮れない。
【おしまい】
最初のコメントを投稿しよう!