ポケットの中をご覧ください

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「あなたが選んだのはハートのエースですね?」 「違います」 「えっ……じゃ、じゃあ、スペードの8?」 「違います」 「えっ……」  結局、トランプマジックは一度も成功しなかった。  なんだか途中からこちらが申し訳ないような気持ちになってきて、謎の罪悪感を植えられる。 「じゃあ! 続いては、……テレパシーです」  次こそ成功させて。  そうじゃないと、穏やかにモンブランを食べられない。 「このカードに触れて、あなたの願いを念じてください」  尼崎くんは、大きなハートが描かれた白いカードをテーブルに置いた。 「願い?」 「そうです。あなたの一番の願い」  ニヤリと笑う尼崎くん。  私は言われた通り、カードに触れて願いを考え始めた。 「目を瞑って」  そう囁かれ、ギュッと瞼を閉じる。  私の一番の願い。  それは……尼崎くんとずっと一緒に過ごすこと。  普段は恥ずかしくてそんな素振り見せられなくて、どちらかというと塩対応をしてしまうけど。  本当は、彼が思っているよりずっと、尼崎くんのこと想ってる。  お互い大学を卒業して、尼崎くんはIT企業に、私は医療事務として就職してから三年。  内心そろそろ、結婚を意識し始めている。  面倒くさいけど、私の為に常に楽しいことを探してくれる尼崎くん。  そんな彼と一緒に居られるのは、私の一番の幸福だ。 「……わかりました」  尼崎くんの神妙な声がして、目を開ける。 「あなたは今、僕と結婚したがってますね?」 「え…………」  心臓が止まるかと思った。  噓でしょ?  本当に、テレパシーでわかったの? 「……正解です」  まさか、一番難解なマジックが成功するなんて。  尼崎くんは、サングラスを外して嬉しそうに微笑んだ。 「では、カードを捲ってください」  震えた手で、言われた通りカードを捲る。 『僕と結婚してください』  カードには、達筆な字でそう書かれていた。 「尼崎くん……」  まだ信じられなくて、見開いた目から涙が滲む。 「ポケットの中をご覧ください」  カーディガンの左ポケットの中には、光り輝くダイヤモンドが一粒ついた、眩いシルバーリング。 「ハンドパワー」 「ハンドパワー」  Mr.アマック。侮れない。        【おしまい】  
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