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結局、私は黙って会釈をして式場を出た。
誰かの死を願うなんて、私は最低な人間だ。
でも、私にとっては六花の命の価値の方が紗那ちゃんの命の価値よりも重かった。
怒りを、やり場のない憎しみを、誰かにぶつけたかった。でも、ぐっとこらえた。
叫ばなかったのは二人のためではない。六花のためだ。
叫べば私はすっきりしたのかもしれない。
でも、それを言うことによって六花は「通り魔に刺されて死んだ悲劇のヒロイン」になってしまう。このまま黙っていれば「女の子を庇ったヒーロー」になれるかもしれない。
優しく賢かった六花。普段から困っている人にすぐに手を差し伸べられる正義感の強い六花は、ヒロインよりはヒーローになりたいにちがいない。
ううん、やっぱり立花のため、ですらないのかもしれない。私のため。
私が六花に綺麗でいてほしいだけなのかも。
ぶちまけられなかった濁った思いは、心の中でドロドロとうごめいた。人の死を願ってしまう自分にふさわしい、醜い心だと思った。
積もった真っ白な雪の中にたたずむ私は、なじめずに浮いている。
通りかかった自動車のタイヤが茶色いシャーベットになった雪を跳ね飛ばした。シャーベットは真っ白な氷の上に落ちて、容赦なく美しい景色を汚した。
戻ってきて、笑ってよ。六花。
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