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「六花は、他界しました」
六花からかかってきた電話から聞こえてきたのは、六花の声ではなかった。
六花のお母さんは、それだけ言って黙り込んだ。
相手が六花だからと電源を切らなかったテレビから、気象予報士の声が聞こえてくる。
信じられなかった。
昨日まで、普通にメッセージをやり取りしていたのに。
昨日は確か、新しくできた友だちとその妹と一緒に雪遊びをすると言っていて、それで……。
「昨日までは、元気でしたよね」
電話越しでも、相手が言葉に詰まったのが分かった。
気象予報士が『明日は雪です』と告げた。
「香澄ちゃんは、六花と仲良くしてくれてたものね。ありがとね」
「理由を教えてください」
食い気味に言葉を返した。娘を亡くして深い悲しみの中にいる六花のお母さんへの気遣いなんて、する余裕はなかった。
「でも……」
六花のお母さんが悩んでいる気配を感じる。
記憶に残っている六花のお母さんは、いつも穏やかで優しかった。言うのを躊躇うような理由なんだな、と回らない頭で考えた。
テレビが時刻を知らせる。ニュースが始まった。
「教えてください。知りたいんです」
言いつのった私に根負けしたのだろうか。
私の耳に届いたのは、感情を削ぎ落としたような声だった。
「六花はね、殺されたのよ」
テレビに映る『女子生徒』『通り魔』の文字。
昨日から何度か目にしていたその赤い文字は、私の瞳に深く刻まれた。
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