第一章 あの町、この町

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毎日が楽しかった。お母さんとお父さんと一緒に山小屋で住む。特別ではなかったけど、とてもすてきな毎日だと思ってた。 雪がなくなってお父さんのお友だちのいる町にもいった。いつもわたしたちのところにきてくれる人たちのいる町だよ。そこでわたしはお友だちをたくさんつくった。遠くのお友だちが遠くにいるだけのお友だちになった。もうお顔も声も知らないお友だちじゃなくなった。 お手紙を送るよって言ったお友だちからは読めないお手紙が山小屋に届いた。わたしも読めないお手紙を包んで、お母さんに送ってもらった。 もう少ししたらね、わたしは町の学校にいくんだ。文字が書けるようになって読めるようになる。数のけいさんも覚えて、たくさんおべんきょうするの。 冬になったらまた山小屋で三人だけになる。でもさびしくないよ。わたしにはお母さんとお父さんが一緒にいてくれるから。 四つのお誕生日に、お父さんはわたしに大きなプレゼントをくれた。白いボール、じゃなくて、白いわんちゃん。サモエドっていうこいぬはすぐに大きくなった。わたしも大きくなっていった。 仔犬の名前はブラン。白いって意味の名前はお父さんがつけてくれた。 ブランは四匹目のわたしたちの家族になった。大きなブランはわたしよりも大きくなった。もう犬小屋には入らない。 暖炉に火がなくてもとてもあたたかいよ。ブランがわたしの側でいつも眠るから。だからわたしが絵本を読んであげるんだ。 お父さんの絵本は町のお友だちも知るものになっていた。 すごくすてきな毎日だった。 すごくすごく素敵で、とっても楽しくなった。明日がくるのが待ち遠しくなった。 そんな時だった。お母さんの知り合いから電話が入ったのは。 その夜、お母さんは泣いていた。こわいこわいって泣いていた。 きっと、お母さんの夢にあのヘビがやって来たんだ。わたしはそう思って、もう何年も一緒に入らなくなっていたお母さんのベッドへブランと一緒に潜り込んだ。お父さんが自分とお母さんの間にわたしを入れてくれたよ。 その夜、わたしたちはお父さんの作った星のお話を聞きながら眠りについた。 朝になってお日さまが顔を出し始めた頃、お母さんは温かいミルクを飲みながらこう言った。 「私にお役目が下りてしまったの」 お母さんはいつもわたしに詳しいことを言わない。わたしが聞きたくないことだってわかってるからだ。 ヨセフさんじゃないお父さんのことも、今度の電話のこともそうだった。いつもお母さんだけが抱えて痛みに悲しんでいた。 まだ小さい子どものわたしが一緒になって抱えることはできなかった。できたのは、お母さんの頭を撫でて大丈夫って言ってあげることくらい。エヴァはひとりじゃないよ。マリアが一緒にいるよ。 お母さんは泣いていた。守ってあげることはわたしにはできなかった。それでもわたしはお母さんの悲しいを少しでも少なくしてあげたかった。だからわたしはお母さんのお話を聞こうとしなかった。 わたしが聞こうとしなければお母さんも話さなくていい。 それでよかったんだと思う。 それまでは、それでよかったんだと思う。 でも、あの電話はわたしとお父さんも巻き込んだ。 次の満月がやって来る前に、わたしたちは山小屋から出ていった。また帰ってこられると信じて、三人と一匹分の家具は置いたまま。 手に持ったのはお泊まり用のカバンだけだった。
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