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「まぁ、もう少し待て、総司よ。」
突然発せられた優しい声に、凪はビクリとその声の主に視線を向ける。近藤はこちらを見ることもせず、ただひたすらに筆を動かしていた。
沖田にその場に座るよう目配せされ、凪が腰を下ろすと、まるで逃がさないとでも言うように、土方が真後ろにドカリと音を立てて座った。
どれくらい時間が経ったのか、凪はただひたすらその沈黙に耐え続けていた。緊張と恐怖から汗が止まらない。顔は俯かせたまま、膝の上で握り込んだ拳を少しだけ広げると、そこは手を洗ったかのようにグッショリと濡れていた。
「さて、すまなかったな。終わったぞ。」
ようやくそう言った近藤が、クルリと座ったままこちらに身体を向けた。凪も驚いて顔を上げると、近藤としっかりと目が合ってしまい、慌てて逸らす。
「お前たち、これは…」
近藤の驚いたような声に、凪は目を瞑る。しかし、
「トシ、どうしてこんなことを。」
まさかの自分ではなく、恐らく土方へ向けられたであろう怒りの籠った声音に、凪は意味が分からず思わず顔を上げる。
「おなごの着物をこうも短く割くなど…こんな野蛮なことをすれば、我らはまた壬生狼と蔑まれたあの頃に逆戻りだ。」
「まぁ、近藤さん。こっちの話も聞いてくれよ。」
近藤はもう一度凪を見ると、溜息をつきながら土方に視線を戻した。
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