新選組

3/9
前へ
/28ページ
次へ
「まぁ、もう少し待て、総司よ。」 突然発せられた優しい声に、凪はビクリとその声の主に視線を向ける。近藤はこちらを見ることもせず、ただひたすらに筆を動かしていた。 沖田にその場に座るよう目配せされ、凪が腰を下ろすと、まるで逃がさないとでも言うように、土方が真後ろにドカリと音を立てて座った。 どれくらい時間が経ったのか、凪はただひたすらその沈黙に耐え続けていた。緊張と恐怖から汗が止まらない。顔は俯かせたまま、膝の上で握り込んだ拳を少しだけ広げると、そこは手を洗ったかのようにグッショリと濡れていた。 「さて、すまなかったな。終わったぞ。」 ようやくそう言った近藤が、クルリと座ったままこちらに身体を向けた。凪も驚いて顔を上げると、近藤としっかりと目が合ってしまい、慌てて逸らす。 「お前たち、これは…」 近藤の驚いたような声に、凪は目を瞑る。しかし、 「トシ、どうしてこんなことを。」 まさかの自分ではなく、恐らく土方へ向けられたであろう怒りの籠った声音に、凪は意味が分からず思わず顔を上げる。 「おなごの着物をこうも短く割くなど…こんな野蛮なことをすれば、我らはまた壬生狼と蔑まれたあの頃に逆戻りだ。」 「まぁ、近藤さん。こっちの話も聞いてくれよ。」 近藤はもう一度凪を見ると、溜息をつきながら土方に視線を戻した。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加