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「局長の怒りは分からなくもないが、そいつをよく見てみてくれ。」
土方の言葉に、近藤は眉間の皺をより深くすると、再び凪に視線を向けた。頭から足先までゆっくりと見つめられ、凪は身体を縮め込ませる。
「この娘は…何を着ているんだ?」
「ああ、それだけじゃねえ。こんな変な格好を、当の本人はおかしいとも思っていなかったみてえだし、それより何より、いきなりこいつは俺たちの前に現れやがったんだ。」
思いもかけない言葉に、凪は息が止まりそうなほど驚愕した。
「いきなり現れた、だと?」
「ああ、そのままの意味だ。総司と鴨川を歩いていたら、こいつはいきなり俺らの前に現れ…いや、出現したという方が正しいな。しかも、逃げ出しやがった、こんな格好でだ。」
「普通はそんなことできんだろう」後に続く土方の言葉はきっとそれなのだろうと、凪は確信した。この時代の女性は、こんな姿で表を歩くことは恐らく決してしない。
「それは、つまり…」
「おい」
土方に声を掛けられ、凪はビクリと震える。
「お前、何者だ?」
土方の全てを見透かすような目に、凪は戸惑いを隠せない。彼は恐ろしいほどの観察眼を持った人なのだと、彼女はこの時初めて思い知らされることになる。
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