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「お前は、どうするんだ?」
「ど、どうって…」
「ここにいる方が、都合が良いんじゃねぇのか?」
室内に沈黙が流れる。それを破ったのは、ずっと黙って彼らの話を聞いていた近藤だった。
「トシ、あとは俺に任せてくれるか。」
「近藤さん?」
立ち上がった近藤が、凪の前にいる土方に退くよう促すと、土方はそれに素直に応じた。凪の前に近藤がそっと座る。
「すまなかったね。さぞ怖い思いをさせただろう。」
優しい物言いに涙が出そうになるのを我慢して、凪はそっと首を横に振る。
「今更になってしまったが、私は新選組局長近藤勇という者だ。君の名は?」
「わ、私は、神村凪と申します。」
「凪…か。珍しい良い名だ。」
「あ、ありがとう…ございます。」
珍しい名だとはよく言われても、良い名だと言われたのは初めてで、凪は少しの嬉しさからか、怖々近藤と視線を合わせた。それに気付いた近藤が微笑む。
「では、話を戻そう。君は、京の人間ではなさそうだが、この後どうしたい?家には帰れるのか?」
「家は…ありません。行く場所もありません。」
凪の言葉に、「やはりか」といった顔で眉を下げた近藤。
「私たちは京の治安を守っている組織だ。君みたいに困った人を助けることも仕事のひとつだが、生憎、屯所として使わせてもらっているここも人様のお宅でね。私の一存で君をここに置くという判断はできかねるんだ。」
当然のことだと、近藤の話に凪は何度も頷く。
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